日本フィジカルAI新聞

世界のフィジカルAIを、日本語で。

週刊ニュースレター購読
分析10一部データはDBと連動

フィジカルAI用語ガイド — VLAから減速機まで

VLA、世界モデル、Sim2Real、ハーモニックドライブ、ZMP。ソフトとハードの用語が同じ会話に出てくるのがこの分野の特徴。43語を系統立てて並べ、どこから読めばいいかを示す。

フィジカルAIの記事が読みにくいのは、 ソフトウェアの用語(VLA、世界モデル、Sim2Real)と、 機械の用語(ハーモニックドライブ、ZMP、バックドライバビリティ)が 同じ一文に出てくるからだ。本紙の用語集43語を、読む順に並べ直した。

43
本紙の用語集に収録
8
本稿での分け方
3
最低限おさえる語
2系統
ソフトとハードの用語が混在

収録語数は本紙用語集の現在値(自動更新)。

この分野の用語が難しい理由

たとえば「GR00T N1.7は30億パラメータのVLAで、Cosmos-Reason2をバックボーンに32層のDiTで低レベル制御を出す」という一文[3]には、 機械学習の語彙しか出てこない。一方で「ハーモニックドライブのバックドライバビリティが低いため力制御が効きにくい」という一文は、 完全に機械工学の語彙である。フィジカルAIは、この2つの語彙体系が接続される場所で起きている。

だから用語をアルファベット順に並べても頭に入らない。 以下は「上から順に読めば話が繋がる」ように並べ直したものである。 各項目は本紙の用語集の個別ページにリンクしている。

1. まず押さえる3語

この3つが分かれば、ニュースの見出しはだいたい読める。

用語説明
フィジカルAI現実世界で体(ロボット等)を使って行動するAI。画面の中だけで完結しない「身体を持つAI」。
基盤モデル大量のデータで事前学習された、様々なタスクに応用できる汎用的なAIモデル。
VLA(Vision-Language-Action)「画像を見る」「言葉で指示を理解する」「動作を出力する」を1つにまとめたロボット用AIモデル。

2. モデルの種類

何を予測するモデルなのかで名前が変わる。VLA・VLM・世界モデルは別物。

用語説明
VLM(Vision-Language Model)画像とテキストを統合的に処理し、視覚情報と言語の対応関係を学習するモデル。
世界モデルAIが環境の仕組みを内部に再現し、未来を予測するためのモデル。
JEPA(V-JEPA / Joint Embedding Predictive Architecture)画像や動画の一部を隠して予測することで、世界の構造を学ぶ自己教師あり学習の枠組み。
拡散ポリシー(Diffusion Policy)拡散ポリシーは、ロボットの行動を生成する際に、ノイズから徐々に行動を洗練させていく手法です。

3. 学習のさせ方

ロボットの学習は「人がやって見せる」か「試行錯誤させる」かに大別される。

用語説明
模倣学習模倣学習は、ロボットやAIが人間の行動を真似て新しいスキルを学ぶ方法です。
強化学習試行錯誤を通じて報酬を最大化するように学習する機械学習の一種。
エンドツーエンド学習センサー入力から行動出力までを一つのニューラルネットワークで直接学習する手法。
Sim2Real(シムトゥーリアル)シミュレーション上で学習した制御を、現実のロボットへ移す技術。差(リアリティギャップ)の克服が鍵。
ドメインランダマイゼーションシミュレーション環境の見た目や物理をランダムに変えて、ロボットが現実でも使える汎用的な知能を学ぶ手法。

4. 動かす技術(制御)

モデルが出した指令を、実際の関節の動きに変える層。ここはロボット工学の伝統的な領域。

用語説明
全身制御全身制御とは、ロボットの全身の関節や部位を協調させて、バランスを保ちながら目的の動作を実現する制御技術です。
モデル予測制御(MPC)モデル予測制御(MPC)は、未来の動きを予測して最適な操作を決める制御方法です。
インピーダンス制御ロボットが力と位置を柔軟に調整する制御方法で、バネのように動きを調節します。
力制御ロボットが接触する力やトルクを調整しながら動く制御方法。
ゼロモーメントポイント(ZMP)ロボットが倒れずに立つための、足裏の接地圧力の中心点。
ロコモーション(移動・歩行)ロボットが体を動かして場所を変える仕組みや技術のこと。
二足歩行二足歩行とは、人間のように2本の足で立って歩く移動方法のことです。

5. 手と操作

いま最も難しいとされる領域。ヒューマノイドの価値の大半はここにある。

用語説明
マニピュレーションロボットが物を掴んだり動かしたりする、手や腕の動きを制御する技術。
器用な操作(Dexterous Manipulation)多指ロボットハンドを用いて、物体を器用に操る操作技術。
多指ハンド(器用な手)多指ハンドは、人間の手のように複数の指を持つロボット用のハンドで、物を掴んだり細かい作業をしたりするための装置です。
エンドエフェクタロボットの腕の先端に付く、物をつかんだり作業をするための「手」の部分。
協働ロボット(コボット)人と一緒に安全に働くことを目的に設計されたロボット。
遠隔操作(テレオペレーション)人間が遠くからロボットを操縦すること。まるでゲームのコントローラーでロボットを動かすイメージ。

6. 感じる(センサ)

何を見て、何を触って判断しているか。触覚は基盤モデル時代に注目が上がっている。

用語説明
触覚センサロボットが触れた感覚を電気信号に変えるセンサー。
深度カメラ(RGB-D)深度カメラは、色情報(RGB)に加えて、各ピクセルの距離情報(Depth)を同時に取得できるカメラです。
LiDAR(ライダー)LiDARは、レーザー光を照射して反射が返ってくる時間を計測し、物体までの距離や形状を3Dで把握するセンサー技術です。
SLAM(自己位置推定と地図作成)ロボットが地図を作りながら自分の位置を同時に推定する技術。
固有受容感覚体の位置や動きを感じ取る感覚で、目を閉じても手足の位置がわかる能力。

7. 動かす部品(アクチュエータ・機構)

日本メーカーの強みが残っている層。ここの用語はニュースの理解より調達で効く。

用語説明
アクチュエータロボットの筋肉にあたる部品で、電気や空気の力で動きを生み出す装置。
サーボモーター回転角度を精密に制御できるモーター。ロボットの関節などで使われる。
BLDCモーター(ブラシレス)電気で回るモーターで、ブラシ(こすれる部品)がないため、静かで長持ちする。
ハーモニックドライブ薄い金属を波打たせて高い減速比を得る減速機。ガタが少なく精密。産業用ロボットの関節に多い。
サイクロ減速機サイクロ減速機は、内歯車と外歯車の噛み合いを利用して大きな減速比を得る高精度な減速機です。
遊星ギア(プラネタリーギア)中心の太陽ギアの周りを複数の小ギアが公転する減速機。小型で大きなトルクを伝えられる。
QDD(準ダイレクトドライブ)モーターと関節を、低い減速比の軽いギアだけでつなぐ駆動方式。力の変化を素早く感じ取れて滑らか。
バックドライバビリティロボットの関節をモーターの力を使わずに手で動かせる性質のこと。
自由度(DOF)ロボットや機械が動ける方向の数。自由度が多いほど、複雑な動きができる。

8. 現場のロボット種別

工場や倉庫で実際に動いているものの呼び分け。

用語説明
ヒューマノイド人間に似た形(二足歩行・腕・手)を持つロボット。人向けの環境や道具をそのまま使える点が狙い。
AGV(無人搬送車)工場や倉庫で自動で荷物を運ぶ、床を走るロボット台車。
AMR(自律移動ロボット)AMR(自律移動ロボット)は、周囲をセンサーで認識しながら自分で経路を決めて動く、工場や倉庫で活躍する「賢い台車」のこと。
ROS(ロボットOS)ROSはロボットの部品(センサーやモーターなど)を動かすためのソフトウェアの「台所」のようなもので、ロボット開発者が共通の道具を使って効率よくプログラムを組み立てられるようにする仕組みです。

混同されやすい3組

VLA と VLM

VLM(Vision-Language Model)は画像と言葉を扱うモデルで、出力は言葉。 VLA(Vision-Language-Action)は、そこに行動の出力が付く。 多くのVLAは、既存のVLMをバックボーンとして、その上に行動を出す層を載せる構造をとる[1]。 「VLMをロボットに載せた」という表現は、たいていVLAのことを指している。

世界モデル と VLA

VLAが「次にどう動くか」を出すのに対し、世界モデルは「こう動いたら世界はどうなるか」を予測する。 用途も違い、世界モデルは学習用の合成データ生成やシミュレーションに使われることが多い。 両者は競合ではなく、組み合わせて使われる。

AGV と AMR

どちらも無人搬送だが、AGVは磁気テープなどの決められた経路を走り、 AMRは自己位置推定(SLAM)で自律的に経路を決める。 導入コストと柔軟性のトレードオフがまったく違うので、調達仕様書では厳密に書き分ける必要がある。

ここから先は編集部の評価

用語を覚える実務的な意味は、誇張を見抜けるようになることにある。

「エンドツーエンド学習で汎用的に動く」という説明を読んだとき、 学習データがどの実機で集められたか(Sim2Realのギャップは埋まっているか)、 制御周期は何Hzか、力制御は入っているかを問える人と、問えない人では、 同じ発表から読み取れる情報量がまったく違う。

Open X-Embodimentが21機関・22機種・16万タスクという規模で共同データセットを作った[2]のは、 まさに「1つの実機で出た成功率は他の実機では再現しない」という前提に立っているからだ。 用語はその前提を共有するための道具である。

個別の語の詳しい解説は用語集に、 モデルの実物はAIモデルDBにある。

出典

  1. 1.π0: A Vision-Language-Action Flow Model for General Robot Control arXiv:2410.24164、2024-10-31一次情報
  2. 2.Open X-Embodiment: Robotic Learning Datasets and RT-X Models arXiv:2310.08864、2023-10-13一次情報
  3. 3.NVIDIA Isaac GR00T N1.7: Open Reasoning VLA Model for Humanoid Robots NVIDIA(Hugging Face 公式ブログ)、2026-04-17一次情報
  4. 4.Transferring Vision-Language-Action Models to Industry Applications arXiv:2509.23121、2025-09-27一次情報
シェア:XThreadsFacebookLINEはてブBluesky

ほかのコラム

  • 中国ヒューマノイドメーカー量産台数ランキング

    2025年に世界で出荷されたヒューマノイドは約1万3000台。上位3社はすべて中国勢で、世界の約8割を占めた。調査会社と当局の数字を突き合わせ、「量産」の実像を確かめる。

  • Unitree G1 / R1 / AgiBot G2 実機比較

    研究用の廉価機、入門機、そして工場向けの業務機。同じ「ヒューマノイド」でも設計思想はまったく違う。公式仕様だけを並べて三機種の役割を分ける。

  • 日本のフィジカルAIスタートアップ30社

    ヒューマノイド、物流、調理、農業、触覚、そして基盤モデル。日本のフィジカルAIを担う30社を領域別に整理し、資金と実装フェーズの現在地を見る。

  • 2026年フィジカルAI資金調達マップ

    ソフトウェア専業に14億ドル、ハード統合型は390億ドルの評価額、中国勢はIPOへ。2026年に確定した大型ディールだけを地図にする。

本コラムは編集部が執筆しています。掲載した数値・固有名詞は原典で照合し、確認できないものは掲載していません。 誤りの指摘は歓迎します。関連する自動生成のニュースはニュースへ。