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分析12

ロボットの歴史からフィジカルAIに至るまで

1920年の戯曲から2026年のヒューマノイド量産まで。100年を貫く軸は性能ではなく「その動作を誰が書いたのか」である。人間の教示、制御工学者の数式、そして基盤モデルへ。

ロボットの歴史は、性能の歴史として語られることが多い。 だが100年を貫く軸をひとつ選ぶなら、「その動作を、誰が書いたのか」である。 人間が教示し、制御工学者が数式で書き、いまは基盤モデルがデータから書く。 2026年、Hondaの P2 がIEEEマイルストーンに認定され[8]、 同じ年にヒューマノイドは年1万3000台が出荷される産業になった[18]。 古典と現在が同じ年に並んだこの機会に、系譜を一本に繋いでおく。

1920
「ロボット」という語の誕生
1961
世界初の産業用ロボットがGM工場へ
1973
WABOT-1(世界初の本格的人間型)
13,000
2025年の世界出荷

年代は各出典による[2,3,5,18]

動作を書いてきたのは誰か

年代動作を書いた主体何が可能になったか
1961–人間(教示・再生)固定された環境で、決められた動作を高精度・高速に反復する
1986–2000制御工学者(運動方程式)二足歩行、全身のバランス制御。ただし対象は既知でなければならない
2004–2015人間が書いた認識+計画屋外の自律走行が成立。一方でヒューマノイドは非構造環境で転倒し続けた
2022–基盤モデル(データ)見たことのない物体・未知の言語指示に、ある程度応答できる。ただし成功率は産業水準に届かない

年表

1920

「ロボット」という言葉が生まれる

動作を書いた主体: —(まだ存在しない)
チェコの作家カレル・チャペックが戯曲『R.U.R.』で robot という語を使った。 語源は古い教会スラヴ語の robota で、「隷属」「強制労働」を意味する[1,2]。 言葉を考案したのは兄のヨゼフだったとカレル自身が述べている[2]。 最初から、この言葉は労働の代替と、それへの恐れをセットで背負っていた。
1954–61

Unimate — 産業用ロボットの誕生

動作を書いた主体: 人間(教示)
ジョージ・デボルが1954年12月10日に特許を出願し、1961年6月13日に成立(US 2,988,237)[3]。 6自由度で動き、手順をドラムに記録して再生するという構成だった[3]。 1956年にジョセフ・エンゲルバーガーと Unimation を設立し[4]、 1961年、ニュージャージー州ユーイングのGM工場に世界初の産業用ロボットが設置された[3]動作を決めていたのは人間である。ロボットは記録された手順を再生する装置だった。
1970–84

WABOT — 人の形に挑む

動作を書いた主体: 人間(教示)+制御
早稲田大学で加藤一郎教授のもと、学科横断プロジェクト「WABOT」が1970年に始まる[5]。 1973年、簡単な会話をし二足歩行する人間型ロボット WABOT-1 が完成[5,6]。 歩行は一歩に45秒を要した[6]。 1984年には楽譜を認識して電子オルガンを演奏する WABOT-2 を発表している[5]
1986–2000

Honda E0 → P2 → ASIMO — 制御理論の到達点

動作を書いた主体: 制御工学者(数式)
Hondaは1986年に二足歩行の原理研究を始め、脚だけのロボット E0 を完成[7]。 約10年後の1996年、二足歩行と双腕機構を実現した P2 を発表[7]。 2000年11月20日、より小型軽量で「i-WALK」を備えた ASIMO を発表した[7]動作を決めていたのは、人間が書いた運動方程式と制御則である。ここが古典的ロボティクスの頂点だった。
1999

AIBO — ロボットが家庭に入る

動作を書いた主体: 設計者(振る舞いの脚本)
ソニーが1999年5月11日にAIBOを発表。日本での価格は25万円で、初回生産3,000台が20分で完売した[9]。 産業用でも研究用でもない市場が、初めて成立した。
2004–05

DARPA Grand Challenge — 屋外自律の失敗と成功

動作を書いた主体: 人間が書いた認識・計画
2004年の第1回では、142マイルのコースを完走した車両が1台もなかった。最も進んだ車でも7マイル強である[10]。 翌2005年10月8日、スタンフォードのStanleyが132マイルを走破して優勝した[10,11]1年で「ゼロ完走」から「複数完走」へ変わったという事実が、 この分野に資金と人を呼び込んだ。
2015

DARPA Robotics Challenge — ヒューマノイドの限界が可視化される

動作を書いた主体: 人間が書いた計画+遠隔操作
福島第一原発事故を受けて始まった災害対応ロボットの競技会。 2015年6月5〜6日にカリフォルニア州ポモナで決勝が行われ、韓国KAISTのDRC-HUBOが優勝した[12]。 このとき世界に広まったのは優勝の映像ではなく、各国のヒューマノイドが次々に転倒する映像だった。 人が書いた計画で非構造環境に対応することの難しさが、誰の目にも明らかになった。
2022–23

SayCan・RT-2 — 動作の作者がモデルに変わる

動作を書いた主体: モデル(データ)
2022年4月、Googleが SayCan を公開。言語モデルの指示を、ロボットが実行可能な行動へ接地させる枠組みである[13]。 2023年7月には RT-2 が、Webスケールの視覚言語モデルの知識をロボット制御へ転移できることを示した[14]ここで断絶が起きる。動作を書くのが人間の制御則から、 データで学習されたモデルへと移った。
2023

Open X-Embodiment — データを共有するという合意

動作を書いた主体: モデル(共有データ)
21機関が参加し、22種類のロボットから527のスキル、16万266のタスクを集めた共同データセット[15]。 異なる実機のデータで学習したモデルが互いの性能を押し上げると示されたことで、 「1社ではデータを集めきれない」という前提が業界の共通認識になった。
2024–26

基盤モデルの時代 — そして産業へ

動作を書いた主体: 基盤モデル(言語で指示)
2024年10月、Physical Intelligenceが π0 を公開。 フローマッチングで連続的な行動を生成する汎用VLAである[16]。 2026年4月にはNVIDIAが GR00T N1.7 を公開し、20,854時間の人間の一人称視点動画で事前学習したと説明している[17]学習データの中心が、ロボットの軌跡から人間の映像へ移りつつある。
ここから先は編集部の評価

この歴史から見て、いま何が新しいのか

「AIでロボットが賢くなる」という言い方は、実はこの100年で何度も繰り返されてきた。 1970年代にも1990年代にも、同じ期待があった。それでも今回が違うと言えるのは、汎化の方向が逆になったからである。

従来は、一つのロボットに対して、想定される状況を人間が列挙して書き込んでいった。 書き込める量が上限になるので、環境を固定するしかない——だから工場のラインは治具で固められている。 いまのVLAは、多数のロボットと大量の映像から学び、 見ていない状況に対して確率的に振る舞う。上限の性質がまったく違う。

ただし、まだ終わっていない

歴史を並べると分かるのは、この分野は「できた」と言われてから産業になるまでが異常に長いことだ。 WABOT-1の二足歩行から、ASIMOが人並みに歩くまで27年かかった。 DARPA Grand Challengeで砂漠を走破してから、自動運転が街中で商用化されるまで20年近くかかっている。

いまのVLAは、デモでは驚くべきことをする一方、実際の工程では産業の合格基準に届いていない。 1961年のUnimateが「決められた動作を確実に反復する」ことで産業になったのに対し、 現在の基盤モデルは「確実に」の部分をまだ持っていない。 歴史のパターンからすれば、そこが埋まるまでにもう一段の時間がかかると見るのが自然である。

そしておそらく、次に振り返ったとき節目として挙げられるのは、 最初にヒューマノイドが人型らしく動いた日ではなく、失敗率が産業の許容水準を下回った日になる。 本紙が出荷台数と稼働時間を追い続けているのは、そのためである。

用語から入りたい場合はフィジカルAI用語ガイド、 現在のモデル勢力図はロボット基盤モデル勢力図へ。

出典

  1. 1.R.U.R.(Rossum's Universal Robots) Britannica
  2. 2.The Origin Of The Word 'Robot' Science Friday
  3. 3.NIHF Inductee George Devol Invented the Industrial Robot National Inventors Hall of Fame一次情報
  4. 4.Joseph Engelberger and Unimate: Pioneering the Robotics Revolution A3(Association for Advancing Automation)
  5. 5.WASEDAロボット技術の変遷 早稲田大学 次世代ロボット研究機構一次情報
  6. 6.(1)世界初の人間型ロボ「WABOT-1」 45秒で一歩 確かな進歩 日本経済新聞
  7. 7.ロボット開発の歴史(E0 1986 / P2 1996 / ASIMO 2000) 本田技研工業(公式)一次情報
  8. 8.Hondaの人間型自立二足歩行ロボット「P2」が「IEEEマイルストーン」に認定 本田技研工業(公式)、2026-04-28一次情報
  9. 9.AIBO(1999年5月11日発表、初回3,000台が20分で完売) IEEE Spectrum / ROBOTS Guide
  10. 10.DARPA Grand Challenge (2005) Wikipedia
  11. 11.Stanley: The Robot That Won the DARPA Grand Challenge Journal of Field Robotics / Springer一次情報
  12. 12.The DARPA Robotics Challenge Finals: Results and Perspectives Journal of Field Robotics一次情報
  13. 13.Do As I Can, Not As I Say: Grounding Language in Robotic Affordances arXiv:2204.01691、2022-04-04一次情報
  14. 14.RT-2: Vision-Language-Action Models Transfer Web Knowledge to Robotic Control arXiv:2307.15818、2023-07-28一次情報
  15. 15.Open X-Embodiment: Robotic Learning Datasets and RT-X Models arXiv:2310.08864、2023-10-13一次情報
  16. 16.π0: A Vision-Language-Action Flow Model for General Robot Control arXiv:2410.24164、2024-10-31一次情報
  17. 17.NVIDIA Isaac GR00T N1.7: Open Reasoning VLA Model for Humanoid Robots NVIDIA(Hugging Face 公式ブログ)、2026-04-17一次情報
  18. 18.Chinese firms lead global humanoid robot production in 2025(調査: Omdia) Xinhua、2026-01-09
  19. 19.中国ヒューマノイド「Unitree Robotics」が上場、初値629%高騰 36Kr Japan、2026-08-19
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