日本フィジカルAI新聞

世界のフィジカルAIを、日本語で。

週刊ニュースレター購読
分析12

URKL — ロボット格闘リーグは何を測っているのか

EngineAIが立ち上げた人型格闘リーグ。予選はMuJoCoでpolicyを提出させ主催者が再現実行し、実機審査は転倒復帰を秒で採点する。全チームが同じT800を使うため競われるのはアルゴリズムだけだ。公式規則V2.0.0と制御アーキテクチャから、この興行の正体を読む。

ヒューマノイド同士を殴り合わせる興行、と言ってしまえばそれまでである。 だがURKLの公式規則V2.0.0を読むと、印象が変わる。 予選はMuJoCo上でpolicyファイルを提出させ、主催者側がそれを再現実行する。 実機審査では転倒からの復帰時間を秒単位で採点する。 全チームが同じT800を使うため、競われるのはハードウェアではなくアルゴリズムだけだ。 これは格闘技の大会の形をした、全身制御のベンチマークである。

URKLとは何か

URKL(Ultimate Robot Knock-out Legend)は、深圳の衆擎機器人科技(EngineAI)が2026年に立ち上げた フルサイズ人型ロボットの格闘リーグである[1,2]。 EngineAIは2023年10月設立で、機体設計から主要部品、運動制御アルゴリズムまでを自社で持つ[5]。 英語版の公式ページは、この大会の目的を「ロボット格闘イベントを、より専門的・大規模・産業的な方向へ発展させること」と説明している[2]

項目内容
正式名称Ultimate Robot Knock-out Legend[2]
主催URKL組織委員会/深圳市衆擎機器人科技(EngineAI)[1]
競技機体EngineAI T800(全チーム共通)[1]
形式選抜+グループ2回総当たり+ダブルイリミネーション[1]
絞り込みオンライン予選で32チーム → 実機審査で16 → 決勝8[1]
予選締切2026年6月10日24時(北京時間)[1]
優勝1,000万元のチャンピオンベルトまたは同等の現金[1]
2位/3位200万元/100万元相当の貴金属メダルまたは同等[1]
4位20万元+限定版T800[1]
5〜8位限定版T800を1台[1]
上位16T800の所有権[1]
決勝の詳細規則待公布(未公表)[1]

賞金の設計そのものが、この大会の狙いを語っている。 優勝賞金1,000万元は話題性のための数字だが、実質的に重いのは上位16チーム全員にT800の所有権が渡ることのほうだ[1]。 大学や研究機関にとって、フルサイズのヒューマノイドを1台手に入れることは通常なら数千万円規模の調達案件になる。 それが競技の副賞として配られる。

予選はMuJoCoで行われる

URKLがショーではないと分かる最初の場所が予選である。 参加チームはT800の公式シミュレーション環境で格闘policyを作り、 動画・policyファイル・設定ファイルを提出する。 そして審査側が公式のMuJoCo展開コードでそのpolicyを読み込み、再現実行する[1]。 動画だけ出して「できました」と主張することはできない。

提出動作には条件がある。最低2種類で、うち1つは公式配布のBVH/FBXモーションデータから学習したもの、 もう1つはチームが自前で収録した高ダイナミックモーションから学習したものでなければならない[1]。 つまり人間の動作をリターゲティングして方策に落とすパイプラインを、自前で回せることが参加条件になっている

一次審査の配点配点何を見ているか
提示品質と完成度15点成果物として成立しているか
動作実行の滑らかさ15点方策の質そのもの
オリジナルモーションデータの処理10点リターゲティング工程を持つか
独自の高ダイナミック動作10点既製データの再現に留まらないか
アルゴリズムのロバスト性5点条件が変わっても壊れないか
動作の連続性10点方策間の遷移ができるか
合計65点二次審査に進むと別途95点満点で再評価[1]

注目したいのは「動作の連続性」に10点、二次審査では「動作の流暢さ」に30点が配されていることだ[1]。 単発のパンチが出せるかではなく、複数の方策のあいだを破綻なく遷移できるかを見ている。 格闘という課題設定において本質的に難しいのはここで、 打撃policyから防御policyへ、あるいは転倒復帰policyへ切り替える瞬間に制御は最も壊れやすい。

転倒復帰が正式な競技種目である

実機審査に進むと、URKLの性格はさらにはっきりする。 倒れた機体が人間の介助なしに起き上がり、ファイティングポーズに戻るまでの時間が採点対象になる[1]

15
0〜3秒で復帰
10
3〜10秒
5
10〜20秒
0
20秒超

うつ伏せと仰向けの両方が試される[1]。 75〜85kgの機体が3秒以内に自力で立ち上がることを満点の条件にしているのは、かなり厳しい設定である。これは格闘の採点というより、高ダイナミック移動のベンチマークそのものだ

移動試験も同様で、ファイティングポーズを維持したまま障害物コースを走破するタイムを競い、30点が配される[1]。 直線歩行ではなく、上体を構えたまま重心を動かし続ける課題になっている。 格闘で効くのは打撃力そのものより、構え・足さばき・外乱耐性・接触後の復元だという理解が、配点に反映されている。

打撃の配点が示すもの

項目配点備考
ジャブ/ストレート/前蹴り各6点基本動作。順位による配分
回し蹴り12点基本動作の2倍
挑発/セレブレーション各5点戦闘力とは無関係
打撃力(補助試験)10点順位競争
蹴撃力(補助試験)10点順位競争

回し蹴りが基本動作の2倍の配点を持つ[1]のは合理的で、 片脚支持のまま上体を回旋させ、接触の反力を受けても倒れないことを要求するからだ。 ZMPと重心が最も破綻しやすい動作に、最も高い点がついている。

一方で「挑発」と「セレブレーション」に各5点が配されている[1]のは、技術的必然では説明できない。 観客に向けた所作を採点項目に入れているという事実は、 主催者がこの大会を研究ベンチマークであると同時に興行として設計していることを示している。 両方を同時に狙っていることは、後段で述べるEngineAIの意図とも整合する。

共通機体T800

全チームが同じ機体を使うため、T800の仕様がそのまま競技の制約条件になる。 以下はすべてEngineAI公式の製品ページの値である[3]

項目公式値
身長/脚長/腕長173cm/91cm/60cm(片腕)[3]
重量75〜85kg(構成による)[3]
自由度25(Basic/Dev)/29+ハンド14=43(Pro)/32+14=46(Max)。脚6・腕5〜7・首2〜3・腰1〜3[3]
最大関節トルク450 N·m[3]
歩行速度2 m/s以上[3]
計算機ベースRK3588S+Orin NX 16G(Dev)またはAGX Orin 64G(Pro/Max)[3]
センサ頭部ステレオカメラ2基、3D LiDAR(Pro/Max)[3]
関節モータ超高速内転子永久磁石同期モータ、工業級クロスローラベアリング[3]
減速比・減速機形式
構体・冷却アルミ+チタン合金、能動空冷[3]
電池モジュール式固体リチウム電池(C24規格・急速交換)[3]
連続稼働3〜5時間[3]

7月16日、実際に殴り合った

2026年7月16日、深圳の南山文化体育センターでURKLの公開戦が行われた。 「白鷹」と「闘牛士(Bullfighter)」の2機のT800が5ラウンドを戦い、闘牛士が3対2で判定勝ちした[7]。会場は満員だったと報じられている[7]

この試合で最も注目されたのは、白鷹の飛び蹴りが闘牛士の頭部モジュールを蹴り飛ばしたにもかかわらず、 闘牛士が防御・打撃を継続し、そのまま勝利したことである[9]

映像としては派手だが、設計上の意味のほうが大きい。 T800は頭部にカメラと知覚デバイスのみを載せ、主制御器・平衡センサ・電源系はすべて胴体側に置いている[9]。 そのため頭部が脱落して電源・データケーブルが断たれても、主制御系の給電と演算は影響を受けない。 視覚を失った状態で胴体側の分散制御だけで戦い続けたことは、 耐衝撃構造と分散フォールトトレラント制御が実際に機能した実証になった[9]

EngineAI創業者の趙同陽は、本当の難しさはパンチを打つことではなく、 動的な環境のなかでコンマ数秒のうちに知覚し、判断し、立て直すことだと述べている[7]。 南山区政府の英語版報道は、T800がリアルタイムの視覚フィードバックによって 相手を捕捉し、動きを予測し、反撃を実行する自律的な意思決定ループを回していると説明する[7]

制御スタック — EngineAIは構成を公表している

URKLの制御スタックは推測するしかない、と思われがちだが、 EngineAIは2026年8月のWRCで自社の具身知能エンジンEngineAI Awakenを発表し、 その階層構成を公表している[4]。人間の神経系の構成を模した5層である。

役割(公式)URKLのどの種目が測るか(本紙の対応づけ)
S1反射層(本能的応答)[4]転倒復帰(0〜3秒で15点)、被打撃後の姿勢回復
S2運動計画・生成層[4]打撃動作、構えを維持した障害物走破、方策間の遷移
S3認知推論層[4]相手の捕捉・動作予測・反撃の選択[7]
S4+S5自己成長層(感情大規模モデル)[4]試合を跨いだ学習。URKLの単試合では直接測られない

技術的に重要なのは、Awakenが「階層異構多周波数制御」という考え方を取り、 意味推論を2Hz、高頻度の運動制御を100Hzと周波数で分離している点だ[4]。 同社はWAMとVLAモデルを統合し、実機上2時間の展開で長期動作の成功率98%超を主張している[4]

この設計をURKLの規則に重ねると、両者がきれいに対応していることが分かる。予選が要求する「公式BVH/FBXからの模倣学習」と「独自高ダイナミックモーション」はS2の作り込みであり、 「動作の連続性」への配点は方策切替の品質を問うている[1]。 実機審査の転倒復帰はS1、相手を見て反撃を選ぶ本戦はS3。URKLの種目構成は、Awakenの階層をそのまま採点表に翻訳したものと読める

ここから先は編集部の評価

EngineAIがなぜ格闘リーグをやるのか。公表されている事実から逆算すると、 少なくとも4つの目的が同時に達成される設計になっている。

1. ハードウェアの破壊試験

歩行や搬送では出ない故障が、格闘では一度に出る。 75〜85kgの機体を蹴らせれば、関節・減速機・軸受・フレーム・コネクタ・電池固定・熱の全部に同時に負荷がかかる。 7月16日に頭部が飛んだこと[9]は、まさにその種の情報である。 能動空冷とチタン合金の採用[3]は、この用途を織り込んだ選択に見える。

2. 全身制御のベンチマーク

工場作業より格闘のほうが、高速度・接触・外乱・転倒・復帰・力制御を同時に要求する。 転倒復帰を秒で刻み、構えを保った移動をタイムで測り、方策の連続性に配点する規則[1]は、ベンチマークとして設計したとしか読めない粒度になっている

3. 実世界データの生成

試合を重ねれば、視覚・自己受容感覚・接触・自機の行動・相手の行動・そして失敗が 揃った実世界データが集まる。これは机上では作れない種類のデータである。 共同創業者の姚其源は、実戦のたびに問題と解決策が生まれ、それを業界全体の糧にしたいと述べている[7]

4. 研究者をT800エコシステムに取り込む

上位16チームへのT800供与[1]は、賞品という以上の意味を持つ。 EngineAIが自社だけでアルゴリズムを書くのではなく、世界中の研究チームがT800上で成果を出す状態を作れば、機体そのものが標準プラットフォームに近づく。 共通ハードで競わせるという競技設計は、この目的と完全に一致している。

そのうえで本紙が見るに、URKLの最大の特異性はベンチマークと興行を分離しなかったことにある。 「挑発」と「セレブレーション」に各5点を配し[1]、 俳優の甄子丹を観戦に招くような演出を行いながら、 同じ規則書のなかでpolicyファイルの再現実行を要求している[1]。 研究者向けの厳密さと観客向けの派手さは通常トレードオフになるが、 EngineAIはそれを一つの規則書に同居させた。 共同創業者は、URKLを世界で最も価値のある商業具身競技IPにしたいと述べている[4]

懸念もある。決勝の詳細規則は本稿執筆時点で「待公布」のままである[1]。 完全自律で戦うのか、どこまで遠隔介入を許すのか、KOの条件は何か—— 競技としての公正性を左右する部分が未確定で、 ネット上で流通している「完全自律」等の記述には、旧版や非公式情報が混ざっている。 ベンチマークを名乗る以上、ここが公開されるまでは結果を技術力の順位として読むべきではない。

それでも、共通ハードで運動制御だけを競わせるという発想は、この分野では貴重である。 機体性能の差でスコアが決まる大会は多いが、T800という一点に条件を固定したことで、URKLの順位は制御アルゴリズムの順位に近づいた。 中国勢の量産動向は量産台数ランキングに、 関節部品の比較は中国QDD関節モジュール主要8社に、 機体の登録情報はT800EngineAIの各ページにまとめている。

出典

  1. 1.URKL 賽事規則詳情 V2.0.0(競技規則・配点・賞金) 深圳市衆擎機器人科技(EngineAI)一次情報
  2. 2.URKL Robot Fighting Competition(英語公式ページ) EngineAI一次情報
  3. 3.T800 製品ページ(公式仕様) 深圳市衆擎機器人科技(EngineAI)一次情報
  4. 4.衆擎全棧升級、WRC全球首發「仿人脳」具身智能引擎 EngineAI Awaken 深圳市衆擎機器人科技(EngineAI)一次情報
  5. 5.関於衆擎(会社概要) 深圳市衆擎機器人科技(EngineAI)一次情報
  6. 6.SA01 高拡展性双足機器人平台(自社関節モジュール) 深圳市衆擎機器人科技(EngineAI)一次情報
  7. 7.EngineAI URKL launches, marking commercial era for humanoid combat 深圳市南山区人民政府、2026-07
  8. 8.衆擎URKL全球人形機器人自由格闘聯賽在深圳挙辦 人民網、2026-07-18
  9. 9.一文看懂T800為何失去頭部仍能戦闘? 新浪新聞
  10. 10.採用自研諧波関節模組!衆擎發布全尺寸通用人形機器人SE01 機器人大講堂
シェア:XThreadsFacebookLINEはてブBluesky

ほかのコラム

  • 中国ヒューマノイドメーカー量産台数ランキング

    2025年に世界で出荷されたヒューマノイドは約1万3000台。上位3社はすべて中国勢で、世界の約8割を占めた。調査会社と当局の数字を突き合わせ、「量産」の実像を確かめる。

  • Unitree G1 / R1 / AgiBot G2 実機比較

    研究用の廉価機、入門機、そして工場向けの業務機。同じ「ヒューマノイド」でも設計思想はまったく違う。公式仕様だけを並べて三機種の役割を分ける。

  • 日本のフィジカルAIスタートアップ31社

    ヒューマノイド、物流、調理、農業、触覚、そして基盤モデル。日本のフィジカルAIを担う31社を領域別に整理し、資金と実装フェーズの現在地を見る。

  • 2026年フィジカルAI資金調達マップ

    ソフトウェア専業に14億ドル、ハード統合型は390億ドルの評価額、中国勢はIPOへ。2026年に確定した大型ディールだけを地図にする。

本コラムは編集部が執筆しています。掲載した数値・固有名詞は原典で照合し、確認できないものは掲載していません。 誤りの指摘は歓迎します。関連する自動生成のニュースはニュースへ。