何が起きたか
2019年5月21日に公開された欧州委員会の研究情報プラットフォームCORDISの記事で、サンタンナ高等研究院(ピサ)の生物ロボティクス教授チェチリア・ラスキ氏が、欧州委員会のFETプログラム支援で実施した「Octopusプロジェクト」の成果と、ソフトロボティクス分野における欧州の競争力維持の重要性を語った。同プロジェクトは、シリコーン製の腕を持つタコ型ロボットの試作を通じて、軟体動物の原理をロボット工学に応用する先駆けとなった。
詳細
ラスキ氏は、ピサ近郊のポンテデーラにある研究室で、約10年前にロボット工学セクターに革命をもたらしたプロトタイプを手に取り説明した。ロボット内部のケーブル、電線、マイクロコントローラーは神経や筋肉のように機能し、人工のタコにメッセージを送って動かす。柔軟な皮膚にはセンサーが組み込まれ、物体を知覚でき、本物のタコのように吸盤で物をつかむ。Octopusプロジェクトからは、タコの腕に着想を得た可変剛性内視鏡や、高齢者の入浴を支援するロボットアームなどの応用研究が生まれた。ラスキ氏は「ソフトロボティクスは現在、世界的に成長し続ける活気ある産業になった」と述べた。
Key Facts
| チェチリア・ラスキ氏はサンタンナ高等研究院(ピサ)の生物ロボティクス教授であり、欧州委員会とFETプログラムの支援を受けてOctopusプロジェクトを実施した。 | 出典一覧 |
| Octopusプロジェクトは、シリコーン製の腕を持つタコ型ロボットの試作を通じて、軟体動物の原理をロボット工学に応用する先駆けとなった。 | 出典一覧 |
| ロボット内部のケーブル、電線、マイクロコントローラーは神経や筋肉のように機能し、柔軟な皮膚のセンサーで物体を知覚し、吸盤で物をつかむ。 | 出典一覧 |
| Octopusプロジェクトから、可変剛性内視鏡や高齢者の入浴支援ロボットアームなどの応用研究が生まれた。 | 出典一覧 |
| ラスキ氏は、米国や日本、韓国、中国がより大きな経済力で投資しており、欧州が投資を続けなければ競争力を失うリスクがあると述べた。 | 出典一覧 |
本紙の見方
今回のCORDIS記事は、ソフトロボティクス分野の先駆者であるラスキ氏が、欧州の競争力維持に向けた投資継続の必要性を訴える内容だ。Octopusプロジェクトは、タコの柔軟な腕の動きを模倣することで、従来の硬い材料を使ったロボットとは異なる新たな可能性を示した。このプロジェクトは、欧州委員会のFETプログラムの支援を受けており、欧州がこの分野で先駆者であったことを示している。 本紙は過去に、EUの博士養成ネットワーク「MAESTRI」やNISTの再現性・計測課題に関する記事を報じた。MAESTRIは磁気ソフトロボティクスに焦点を当て、NISTは計測基盤の整備を提言している。これらは、ソフトロボティクスが研究段階から産業応用へ移行する中で、人材育成と標準化が重要な課題であることを示す。ラスキ氏の発言は、欧州が基礎研究の優位性を産業競争力に結び付けるには、継続的な投資が不可欠であるという点で、これらの流れと符合する。 業界構造への含意として、ソフトロボティクスは材料、センサー、アクチュエーター、制御技術など多岐にわたる要素技術の統合が求められる。Octopusプロジェクトで開発された可変剛性内視鏡や介護用ロボットアームは、医療や福祉分野での応用が期待される。一方で、米国やアジア諸国の投資規模が拡大する中、欧州が基礎研究の成果を製品化に結び付けるエコシステムを構築できるかが焦点となる。 未確定の論点としては、Octopusプロジェクトの具体的な応用製品の実用化時期や、欧州の投資継続の具体的な政策措置が挙げられる。また、ソフトロボティクスの量産化におけるコストや信頼性の課題も、今後の検証が必要だ。
なぜ重要か
ソフトロボティクスは、従来の硬いロボットでは困難だった柔軟な動作や安全な人との接触を可能にし、医療・介護・製造など幅広い分野での応用が期待される。欧州がこの分野で先駆者的地位を維持できるかは、今後の投資と産業化の成否にかかっており、世界の技術競争の行方を左右する。
日本への影響
ラスキ氏は、日本を含むアジア諸国がソフトロボティクスに投資していると指摘する。日本はロボット工学の強みを持つが、ソフトロボティクス分野では材料やセンサーなどの要素技術で欧米に追随する面がある。欧州の投資継続の動きは、日本企業にとって競争圧力となる一方、共同研究や部品供給などの協力機会も生む可能性がある。