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分析13

DYNAMIXEL の選び方 — 800gの二足から MIDAS Hand、ヒューマノイドまで

カタログのトルクだけで選ぶと失敗する。ストールトルクは出し続けられる値ではなく、電流が読めることと外力が測れることも別である。XM335を13個使うUCLA RoMeLaのMIDAS Hand、XL330で組むMicroDuck、48VのQシリーズを並べ、公式仕様から選定の順序を整理する。

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DYNAMIXEL は、800g級の二足ロボットから人間サイズのヒューマノイドまでを同じ作法でカバーする、 制御回路一体型の関節アクチュエータである。だから選定を誤りやすい。 カタログのトルクだけを見て選ぶと、たいてい失敗する。 重量、減速比、電流制御の有無、電源電圧——見るべきはそちらで、 しかもカタログのトルク値は止まるまで負荷をかけたときの瞬間値であって、 出し続けられる値ではない[6]。 2026年9月6日時点の公式仕様と、公開されている採用例から、選び方を整理する。

そもそも何を買っているのか

DYNAMIXEL が売っているのはモータ単体ではない。モータ + 減速機 + 位置センサ + ドライバ + 制御用マイコン + 通信を 1つの筐体に収めたユニットである。上位から「この角度へ」「この速度で」と指令でき、 現在位置や温度を読める。対応機種なら電流も読み書きできる[7]。 複数台を数珠つなぎにできるので、多関節ロボットが短期間で組める。

この「組みやすさ」は仕様書の数値に出てこないが、採用理由としては大きい。 ROBOTIS 自身、MIDAS Hand の解説で、直接駆動の理屈より先に 「モータ・減速・コントローラ・ドライバ・フィードバック・通信をひとつのモジュールに統合したことで、 調達・配線・デバッグ・再現が容易になる」ことを挙げている[9]

系列の全体像

系列主な機種特徴向く用途
XLXL-320, XL330, XL430, 2XL430低価格・樹脂ギア・軽量。XL330は電流制御に対応小型ロボット、教育、表情・首・触角
XCXC330, XC430, 2XC430金属ギアで耐久性を強化多指ハンド、繰り返し動く小型関節
XMXM335, XM430, XM540電流制御を備える汎用系列研究用アーム、グリッパー、小型ヒューマノイド
XHXH430, XH540Maxon製コアレスモータ。24V仕様もあるモータ特性や電源構成を重視する用途
XDXD430, XD540XHを基に寿命を改善長時間・高頻度で繰り返す機構
XWXW430, XW540IP68の防塵防水湿潤環境、屋外
PPM42/54, PH42/54BLDC + 高減速比サイクロイド減速機大型アーム、重量物
YYM070, YM080中空構造。減速機・ブレーキを選べる大型関節、作業アーム
QQC050/060/080/100低減速比のQDD。トルク・インピーダンス制御[5]歩行、接触、全身運動
AX/MXAX-12A, MX-28/64/106従来世代。採用実績が多い既存機の維持

XL〜XW をまとめて X シリーズと呼ぶ[1]。 なお AX/MX を一括して生産終了と扱うのは誤りで、公式一覧で生産終了表示が付くのは 旧 PRO・RX・DX・EX などである[1]「コアレス」は回転子に鉄心を持たない構造を指し、「ブラシレス」と同義ではない。X系のコアレスDCと、P/Y/QのBLDCは別物として扱う。

MIDAS Hand — 13個のXM335で組む、指の実例

2026年に出た具体例が分かりやすい。UCLA RoMeLa の MIDAS Hand は、 16自由度(うち能動13)、283個の3軸触覚タクセル、質量700g、部品表3,000ドル未満、 3Dプリント部品で組立3時間未満というオープンソースの多指ハンドである[8]。 この能動13自由度を担うのが DYNAMIXEL XM335-T323-T が13個[9]

13
XM335-T323-T
283タクセル
3軸触覚センサ
700g
ハンド質量
3,000ドル未満
部品表

自由度・タクセル数・質量・BOMは論文[8]、アクチュエータ構成はROBOTIS[9]

XM335-T323-T の公式値は、11.1Vでストール1.03N·m・無負荷53rpm、質量27g、 19.0×35.0×22.0mm、減速比323.04:1、動作電圧6.5〜12.0V(推奨11.1V)[3]。 指の関節に収まる細長い形状で、電流制御を含む6つの制御モードを持つ[3]。 ROBOTIS 自社の5指20自由度ハンド HX5-D20 も、同じ XM335-T323-T を各指関節に置いている[10]

小型機の分かれ目 — XL330 / XC330 / XM335

機種比較電圧重量ストールトルク無負荷回転数電流制御
XL330-M077-T5V18g約0.215N·m383rpm
XL330-M288-T[2]5V18g0.52N·m103rpm
XC330-M288-T5V23g0.93N·m81rpm
XM335-T323-T[3]11.1V27g1.03N·m53rpm
XL430-W250-T12V57.2g1.5N·m61rpm×
XM430-W350-T/R[4]12V82g4.1N·m46rpm

読み取れる関係は3つある。XL330→XC330 は、同じ 20×34×26mm・18g→23g のまま金属ギアと軸受で 機械強度とトルクを上げる変更で、代わりに速度が下がる。XL330→XL430 は大型化してトルクを増やすが、電流制御を失う。 力加減が要る機構では単純な上位互換にならない。XM430→XM540 はアームの根元向けで、モータ自体が重くなるぶん、 先端に載せると根元の負荷が増える。

型番も素直ではない。XM430-W350-R は XM が系列、430 がサイズ区分、 350 が減速比に関わる区分、末尾 R が RS-485 を示し、実際の減速比は 353.5:1 である[4]XC330-T288-T のように、途中の T(6.5〜12V系)と末尾の T(TTL通信)は意味が違う。電源電圧と通信の信号電圧も別で、12Vで動くから通信端子に12Vを入れてよい、 ということにはならない。

電流が読めることと、力が測れることは違う

制御方法指令するもの向く動作
位置制御目標角度首振り、決めた姿勢、アーム軌道
速度制御回転速度車輪、ローラー
拡張位置制御複数回転を含む位置巻き取り、追加減速機
電流制御目標電流トルク指令の基礎、柔らかさの制御
電流ベース位置制御目標位置 + 電流による出力制限押しつけすぎないグリッパー
インピーダンス制御位置・速度目標、硬さ・減衰、補助トルク接触でしなる関節、動的な全身制御[5]

X系の対応機種は電流ベース位置制御まで[7]、 インピーダンス制御モードを持つのは Q である[5]。 ただし電流が読めることと、関節の外力を正確に測れることは別である。モータの発生トルクは電流にほぼ比例するが、出力軸では減速機の摩擦・効率・慣性が効く。 減速比が高いほど「電流から推定したトルク」と「実際に物体へ加わる力」はずれる。 精密な接触力が要るなら、指先や手首に力覚センサを別途置くことになる。 MIDAS Hand が283個の触覚タクセルを載せている[8]のは、この差を埋めるためでもある。

機種固有の落とし穴もある。XM335 は入力電源側で電流を測る点が 他のX系と異なると公式に明記されている[3]。 型番をまたいで電流値をそのまま比較してはいけない。

MicroDuck — 軽く作ることが制御を助ける

Pollen Robotics の MicroDuck は、高さ約25cm・重量約800g・モータ15個の二足ロボットで、 カメラ、小型深度センサ、IMU 2個を積み、歩行・着座・しゃがみ・転倒からの復帰・ くちばしでの把持を行う。予約価格は税送料別399ドル[11]。 公式の強化学習リポジトリは XL330 のアクチュエータモデルを使っている[12]

この構成が効く理由は単純な算術である。18gのサーボ15個なら270g。 82gのXM430を15個使えば1,230gで、モータだけで MicroDuck 全体の重量を超える。 二足歩行では、強いモータへの変更が機体重量を増やし、さらに強いモータを要求する循環が起きる。 脚が短ければ「支える重さ×重力×関節からの水平距離」で決まる静的負荷そのものを小さくできる。

改造するなら頭部の重量増が最も効く。首関節から水平8cmの位置に100gを足すと、 0.1kg × 9.81m/s² × 0.08m ≒ 0.078N·m が静的に上乗せされる。 XL330-M288 のストール 0.52N·m[2] に対して無視できない量である。 サーボを替える前に、カメラや基板を関節に近づけ、外装を軽くし、首の姿勢を見直すほうが効く。

大型側 — P・Y・Q の性格差

Q は従来の DYNAMIXEL の印象を変える系列で、 高減速比で保持する関節から、外力で動かしやすい関節へ方向を変えている。 公開されている QC の暫定仕様は次のとおり[5]

型番重量減速比連続トルク最大トルク無負荷回転数
QC050-110-R025-RE250g25:12.5N·m8.0N·m240rpm
QC060-200-R020-RE455g20:110.6N·m30.0N·m200rpm
QC080-240-R020-RE865g20:124.2N·m72.6N·m110rpm
QC100-430-R020-RE1,810g20:151.6N·m166.2N·m88rpm

いずれも48V、位置・速度・トルク・インピーダンスの4モード。公式ページが暫定仕様と明記[5]

減速比を下げる意味は、出力軸から見たモータ慣性が減速比の2乗で効く (理想化すれば J反映 = N²·Jモータ)ことにある。 高減速比はトルクを稼ぐ代わりに、外力に対する動かしやすさと動的応答を犠牲にする。 歩行や接触が主題なら、この交換条件のほうがトルクの絶対値より重い。

選定の順序

カタログのトルクより先に、保持姿勢と動作時間を決める。 1kgを関節から水平30cmで保持するだけで 1 × 9.81 × 0.3 ≒ 2.94N·m が要る。 ここに腕自身の重量、加速、摩擦が乗る。 XM430-W350 のストールは4.1N·m[4]だが、これを根拠に「1kgを30cm先で持ち続けられる」とは言えない。 ROBOTIS 自身、ストールトルクしか公表のない機種についてその20%を連続トルクの推定目安としており[6]、 XM430-W350 なら約0.82N·m になる。しかもこれは温度・放熱・運転条件を問わない保証値ではない。

設計したい部分最初の候補判断する点
軽い触角・耳・まぶたXL330-M077速度、可動範囲、静音性
小さな首・くちばしXL330-M288軽量化と電流による出力制限
繰り返し荷重を受ける小型関節XC330-M288金属ギア、軸支持、価格増
多指ハンドの指関節XM335-T323形状、11.1V系、入力側電流計測[3,9]
小型研究用アームXM430 / XM540リンク長、連続負荷、根元側の重量
大型の作業アームY / P連続トルク、ブレーキ、軸受荷重
動的な歩行・全身接触Q確定仕様、調達性、制御応答[5]

ほかに設計へ直接効くのは、角度分解能と実際の位置精度が違うこと (4,096分割で1カウント約0.088°でも、XM430の公称バックラッシュは0.25°[4])、 多関節機では同時動作時の電圧降下とコネクタの電流容量が性能を縛ること、 そして外装やリンクを変えたら学習済みの動作を評価し直す必要があることである。 重量・重心・慣性・摩擦が変われば、MicroDuck のような学習制御の前提が変わる[12]

本紙の見方

ここから先は編集部の評価

小型機では、全関節を高価なサーボへ置き換えるより、 まず軽量化と重心配置を詰め、実測で負荷や摩耗が厳しい関節だけを上げるほうが合理的だと考える。 LEAP Hand が標準構成で金属ギアの XC330、Lite で XL330 を使い分けている[13]のは、 価格と耐久性の交換条件をそのまま製品構成にした例である。 強化した結果、次にリンクやケースが壊れることもある。荷重が流れる機構全体で判断する話になる。

MIDAS Hand が示したのは、その判断を他人が再現できる形で公開する価値のほうだろう。 設計ファイル、組立手順、制御と触覚のPython API、シミュレーションモデル、 リターゲティングと遠隔操作のパイプラインまでが揃っている[8]。 アクチュエータが既製のモジュールだから、部品表を見れば同じものが組める。 「調達・配線・デバッグ・再現が容易」[9]という利点は、 カタログのトルク値には現れないが、研究の速度を決めているのはたぶんそちらである。

なお本稿では価格に踏み込まなかった。表示価格は地域と時期で動き、 量産調達の価格を市販の少量購入価格から逆算することもできないためである。 DYNAMIXEL の系列変更が多関節機のBOMに直結するのは確かなので、 調達条件を含めた比較は別途扱いたい。

関連: ROBOTIS と DYNAMIXEL — 1999年創業の部品会社が、ロボット学習の配線を決めた

出典

  1. 1.DYNAMIXEL Model Reference(全モデル一覧) ROBOTIS e-Manual(公式仕様)一次情報
  2. 2.XL330-M288-T ROBOTIS e-Manual(公式仕様)一次情報
  3. 3.XM335-T323-T ROBOTIS e-Manual(公式仕様)一次情報
  4. 4.XM430-W350-T/R ROBOTIS e-Manual(公式仕様)一次情報
  5. 5.DYNAMIXEL-Q(QC050/060/080/100 仕様) ROBOTIS(公式製品ページ)一次情報
  6. 6.Understanding DYNAMIXEL Torque Ratings ROBOTIS(公式ブログ)一次情報
  7. 7.Current-Based Control Modes ROBOTIS(公式ブログ)一次情報
  8. 8.MIDAS Hand: Modular low-Impedance Direct-drive Anthropomorphic Sensing Hand UCLA RoMeLa(arXiv:2607.14487)一次情報
  9. 9.Inside MIDAS: Open-Source Hardware for Dexterous Manipulation ROBOTIS(公式ブログ)一次情報
  10. 10.ROBOTIS HX5-D20 Introduction ROBOTIS e-Manual(公式仕様)一次情報
  11. 11.Introducing MicroDuck Pollen Robotics(公式発表)一次情報
  12. 12.pollen-robotics/microduck_rl(公式学習環境) Pollen Robotics(GitHub)一次情報
  13. 13.LEAP Hand v1 — Parts List LEAP Hand(公式)一次情報
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