何が起きたか
NYUタンドン工学部のNana Obayashi氏(EPFL在籍時に主導)らのチームは2026年8月25日、長さを変えても魚らしい遊泳運動を維持できるロボット魚「ScaFi」を発表した。全長約0.6m、1.1m、2.9mの3機を製作し、遊泳試験と野外試験を実施。最小機は水深15〜30cmの小川、中型機はスイスの小川、最大機はレマン湖で運用した。
詳細
ScaFiはタラやサバをモデルに、剛直な前部と繊維ガラス棒でできた柔軟な尾部を持つ。1つのモーターが尾部の近くで交差する2本の腱を引っ張り、S字状の曲げを生み出す。サイズ変更に伴って変えるのは尾部のロッド径のみで、モーター機構と交差腱システムは共通。3機の遊泳運動は体サイズで補正するとよく一致し、全長が約5倍に拡大しても魚らしい歩容が保たれた。エネルギー効率は最大機だけが一貫して低く、より強力なモーターが必要だった。外乱試験では最小機が最も機敏だが復元が遅く、大型機は機敏さに欠けるが安定していた。論文はnpj Roboticsに掲載された。
Key Facts
| ScaFiは全長約0.6m、1.1m、2.9mの3機が製作され、遊泳運動は体サイズで補正するとよく一致した。 | [1] |
| 尾部の繊維ガラス棒の直径だけを変えることで、モーター機構と交差腱システムは共通のままスケール変更が可能。 | [1] |
| 野外試験では、最小機は水深15〜30cmの小川、中型機はスイスの小川、最大機はレマン湖で運用された。 | [1] |
| エネルギー効率は最大機だけが一貫して低く、より強力なモーターが必要だった。 | [1] |
| 論文はnpj Roboticsに掲載され、研究は欧州連合のHorizon 2020プログラム(Marie Skłodowska-Curie助成金No. 945363)の一部支援を受けた。 | [1] |
本紙の見方
今回の発表の新規性は、魚型ロボットのスケーラビリティを「尾部のロッド径」という単一パラメータに集約した点にある。従来の魚型ロボットはサイズごとに設計をやり直す必要があったが、ScaFiはモーター機構と腱システムを共通化し、ロッド径だけを変えることで全長0.6mから2.9mまで約5倍の範囲で遊泳運動を維持できる。これは、環境ごとに異なるサイズのロボットを個別に設計・製造するコストを削減する可能性を示す。 本紙の過去記事では、イマックエイトがMR溶接シミュレーションツールでCADデータを実寸大で再現する取り組みを報じた。ScaFiも実環境での運用を想定した点で共通するが、ScaFiは物理的なスケーリングに焦点を当てており、シミュレーションと実機の乖離を埋めるという点で補完的だ。また、エコモットのヒグマ対策やIDS ImagingのToFカメラも、環境モニタリングやロボティクス用途で実世界データを扱う点で関連するが、ScaFiは生物模倣とスケーリングという独自のアプローチを取る。 業界構造への含意として、ScaFiの設計思想は水中ロボットの製造プロセスに影響を与える可能性がある。従来はサイズごとに設計・試験が必要だったが、共通プラットフォーム化により、部品の共通化や量産効果が期待できる。また、研究プラットフォームとして、遊泳性能がスケールとともにどう変化するかを系統的に調べる手段を提供する。これは、動物では制御が難しく、特注ロボットでは比較が困難だった問いだ。 未確定の論点として、エネルギー効率のスケーリングが挙げられる。最大機は一貫して効率が低く、原因は抗力と慣性と推測されているが、正確な原因は未解明だ。また、今回の設計が水中以外のコンプライアントロボットに適用できるかは未検証で、今後の研究が待たれる。さらに、実用化には耐久性やコスト、制御システムの詳細など、論文に記載されていない要素の確認が必要だ。
なぜ重要か
ScaFiは、水中ロボットの設計を「サイズごとに一から」から「パラメータ調整」へ変える可能性を示す。これにより、環境モニタリングや生態研究のためのロボットを、より迅速かつ低コストで展開できるようになるかもしれない。また、生物模倣ロボットのスケーリング理論に新たな知見を加える点で、学術的にも意義がある。
日本への影響
日本は魚類の養殖や海洋調査が盛んで、水中ロボットの需要が見込まれる。ScaFiのスケーラブル設計は、異なる水域に対応するロボットを効率的に開発する手法として、日本の水中ロボット開発に応用できる可能性がある。ただし、具体的な日本企業や研究機関との関連はソースに記載されておらず、今後の動向を注視する必要がある。