何が起きたか
南洋理工大学の佐藤裕崇教授らの研究チームは、マダガスカルゴキブリに装着する潜水スーツを開発し、水中で最大3時間の活動を可能にしたと発表した。このスーツは過酸化水素と二酸化マンガンの化学反応で酸素を生成し、陸上と水中の両方で移動できる。
詳細
潜水スーツは、柔軟な外殻、酸素発生装置、酸素供給チューブで構成される。酸素発生装置は過酸化水素溶液と二酸化マンガン触媒を封入した密閉チャンバーで、触媒反応により酸素を生成する。チューブはゴキブリの胸部気門に接続され、生成された酸素を気管に供給する。水中試験では、ゴキブリは陸上と同様の速度で水中の地形を探索し、障害物を乗り越えることができた。
Key Facts
| 南洋理工大学の研究チームが、マダガスカルゴキブリに装着する潜水スーツを開発し、水中で最大3時間の活動を可能にした(Nature Communicationsに掲載)。 | [1] |
| 潜水スーツは過酸化水素と二酸化マンガンの化学反応で酸素を生成し、電子部品を不要とする。 | [1] |
| 水中試験では、ゴキブリは陸上と同様の速度で水中を移動できた。 | [2] |
本紙の見方
今回の発表は、サイボーグ昆虫の運用範囲を陸上から水中へ拡張する点で画期的である。従来のサイボーグ昆虫は、ホスト生物の自然環境に制約され、水中活動は不可能だった。本手法は、化学反応による酸素供給という簡便な方式でこの制約を克服し、災害現場やインフラ点検など、水没や冠水が想定される環境での連続運用を可能にする。 本紙の過去報道との関連では、サイボーグ昆虫の研究はこれまで主に陸上での移動制御やセンシングに焦点が当てられてきた。今回の潜水スーツは、その運用範囲を水中に拡張するもので、災害調査など実用化に向けた大きな一歩と位置づけられる。 業界構造への含意としては、サイボーグ昆虫は従来の小型ロボットに比べ、電力消費が極めて少ないという利点がある。今回の潜水スーツは電子部品を不要とするため、さらなる低消費電力化と小型化が期待できる。一方で、実用化には無線通信やセンサーとの統合、長時間運用のための耐久性向上など、解決すべき課題も残る。 今後確認すべき点としては、第一に、潜水スーツの量産可能性とコスト、第二に、実環境での耐久性や信頼性、第三に、他の昆虫種への応用可能性が挙げられる。
なぜ重要か
サイボーグ昆虫の運用範囲を水中に拡張したことで、災害調査やインフラ点検など、これまでアクセスが困難だった環境での活用が現実味を帯びる。低消費電力で長時間運用できる特性は、従来のロボット技術では難しかった領域での実用化を後押しする可能性がある。