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分析9

Physical Intelligenceの研究者はどこから来たのか

π0の著者24人を、RT-2・SayCan・PaLM-Eの著者リストと突き合わせる。Googleのロボティクス研究の中核が、そのまま一社になったことが分かる。

Physical Intelligenceがどこから来たのかは、経歴を調べなくても分かる。 π0の論文に並んだ24人の名前を、RT-2・SayCan・PaLM-Eの著者リストと突き合わせればいい。 8人が一致する。人が個別に移籍したのではなく、Googleのロボティクス研究の中核がそのまま一社になった、というのが実態に近い。

24
π0(2024年10月)の著者数
8
うちGoogleのロボ論文にも名前
35
π0.5(2025年4月)の著者数
0
π0からπ0.5で著者から消えた人

すべて論文の著者リストから直接数えた値[1,2,3,4,5]

創業は7人

Physical Intelligenceは2024年、サンフランシスコで設立された。 創業者はKarol Hausman、Sergey Levine、Chelsea Finn、Brian Ichter、Lachy Groom、Adnan Esmail、Quan Vuongの7人で、 Google DeepMindおよびスタンフォード大学・カリフォルニア大学バークレー校の出身者を中心とする[7]。 Groomは決済企業Stripeの元幹部で、研究者ではない[7]

Googleのロボティクス論文との重なり

より具体的に見る。π0の著者24人のうち、以下の8人は、 Googleが2022〜2023年に出したロボティクスの主要論文—— SayCan(言語で行動を接地する)、PaLM-E(身体性を持つマルチモーダルLM)、RT-2(Web知識をロボット制御へ転移するVLA)—— の著者でもある[3,4,5]

π0の著者SayCan(2022)PaLM-E(2023)RT-2(2023)備考
Sergey LevinePhysical Intelligence 創業者
Karol HausmanPhysical Intelligence 創業者
Brian IchterPhysical Intelligence 創業者
Chelsea FinnPhysical Intelligence 創業者
Noah Brown
Danny Driess
Quan VuongPhysical Intelligence 創業者
Karl Pertsch

●は当該論文の著者リストに名前があることを示す。判定は各論文の著者リストのみに基づく[1,3,4,5]。 なおQuan Vuongは創業者としても挙げられている[7]

もうひとつの源流は大学

π0.5では著者が35人に増え、π0の24人は誰も抜けていない[1,2]。 新たに加わった11人は次のとおりである[2]

  • James Darpinian
  • Karan Dhabalia
  • Manuel Y. Galliker
  • Dibya Ghosh
  • Devin LeBlanc
  • Allen Z. Ren
  • Laura Smith
  • Jost Tobias Springenberg
  • Kyle Stachowicz
  • Homer Walke
  • Lili Yu

創業メンバーがGoogle系の産業研究出身だったのに対し、増員は大学の強化学習・模倣学習コミュニティから来ている。 LevineがUCバークレーの、Finnがスタンフォードのそれぞれのラボにいたこと[7]を踏まえると、 研究室のパイプラインがそのまま採用経路になっている構図が見える。

接着剤としてのOpen X-Embodiment

この移動を可能にしたのは、個々の人材だけではない。 2023年のOpen X-Embodimentは21機関が参加し、22種類のロボット・527スキル・16万266タスクを共同で集めた[6]。 Googleの研究者と大学の研究者が同じデータセットの上で作業する枠組みが先にあり、 そこに参加していた人々が、そのまま一社に集まった。基盤モデルの勢力図で見た「データ共有が先に立ち上がった」という特徴は、 人材の流動においても同じ働きをしている。

ここから先は編集部の評価

ここから読み取れることが二つある。

第一に、持ち出せたのは人とアイデアで、データではなかった。 RT-2やSayCanの学習に使われたGoogleのロボットデータは、当然ながら移らない。 Physical Intelligenceは設立後、自前でデータを集め直している。 この産業で「人を採れば追いつける」という発想が成立しにくいのは、そのためだ。

第二に、この会社は論文で人を測れる状態を、自ら閉じつつある。 π0とπ0.5は著者リストを完全に公開していたが、2026年4月のπ0.7では、 公式ブログに重み・コードの公開に関する記述がなく、論文へのリンクと問い合わせ先が置かれているだけである[8]。 本稿のような追跡ができたのは、初期の2本が全著者を出していたからにすぎない。

日本の組織にとっての含意は、人材獲得競争の話ではない。 Open X-Embodimentのような共同データセットに参加していたかどうかが、 その後の人的ネットワークと採用経路を決めた、という点のほうが重い。データ収集の枠組みに入っているかどうかは、 データが手に入るかどうかの問題であると同時に、誰と働けるかの問題でもある。

出典

  1. 1.π0: A Vision-Language-Action Flow Model for General Robot Control(著者24名) arXiv:2410.24164、2024-10-31一次情報
  2. 2.π0.5: a Vision-Language-Action Model with Open-World Generalization(著者35名) arXiv:2504.16054、2025-04-22一次情報
  3. 3.RT-2: Vision-Language-Action Models Transfer Web Knowledge to Robotic Control arXiv:2307.15818(Google DeepMind)、2023-07-28一次情報
  4. 4.Do As I Can, Not As I Say: Grounding Language in Robotic Affordances(SayCan) arXiv:2204.01691(Google)、2022-04-04一次情報
  5. 5.PaLM-E: An Embodied Multimodal Language Model arXiv:2303.03378(Google)、2023-03-06一次情報
  6. 6.Open X-Embodiment: Robotic Learning Datasets and RT-X Models(21機関共同) arXiv:2310.08864、2023-10-13一次情報
  7. 7.Physical Intelligence Inc. Wikipedia
  8. 8.π0.7: a Steerable Model with Emergent Capabilities Physical Intelligence(公式ブログ)、2026-04-16一次情報
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