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AIで人類が滅ぶ8つの極端シナリオと著名人P(doom)完全総覧 — 自己増殖ロボット網から「滅亡しない支配」まで

FRI予測調査(0.38% vs 3.0%)とAI研究者2,778人調査(中央値5%)を踏まえ、8つの極端シナリオの物理的壁を検証。英国AISIで成功率5%→60%へ急伸した自己複製課題とロボット工場網、第一原理の条件付き確率積(0.7%)、そしてヤンポルスキー・テグマーク・アモデイ・ヒントン・マスクからルカン・フアン・ゲブル・ザッカーバーグまで40名超の発言録を体系化する。

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執筆・編集責任:日本フィジカルAI新聞 編集部

「AIによって人類が滅亡する確率(通称 P(doom))は何%なのか、そしてもし滅ぶとすればどのような物理的経路を辿るのか」── この問いはSFの領域を超え、AI企業の経営陣・ノーベル賞学者・各国の安全保障機関が公式文書で激論を交わす重要テーマとなっている[1,2,3,5]。本稿ではまず、予測市場やAI研究者2,778人の大規模調査が示す客観的な確率分布を確認したうえで、「AIで人類が滅ぶ8つの極端シナリオ」とそれぞれの物理的・社会的な壁を検証する[1,2]。特に本紙が扱うフィジカルAIの視点から、シナリオ④「自己増殖するロボット・工場網」と英国AI安全保障研究所(AISI)の自己複製ベンチマーク(成功率5%→60%)を掘り下げ、さらに第一原理からの条件付き確率分解と、著名人・研究者計40名超の発言録・P(doom)一覧を体系的にまとめる[4,5,6,7,8]。

0.38% / 3.0%2100年迄の絶滅
FRI調査中央値(予測プロ0.38% / AI専門家3.0%)
5%2,778人中央値
AI研究者2,778人が見積もる「絶滅または永久無力化」中央値
5% → 60%2023→2025年
英国AISIが報告したAI「自己複製」関連課題の成功率推移
0.7%第一原理の条件積
AGI(70%)×制御喪失(20%)×世界掌握(50%)×完全絶滅(10%)

1. 大規模調査が示す「AIによる人類絶滅確率」の現在地#

個人の主観的な発言を見る前に、まず複数の専門家や予測のプロフェッショナルを対象に行われた大規模調査の統計値を確認しておく必要がある。代表的な3つの調査・報告書は以下の通りである[1,2,3]。

調査・報告書対象・規模主な結果・中央値解釈上の注意点
Forecasting Research Institute (FRI) 調査スーパーフォキャスター(予測プロ)とAI専門家2100年までのAI人類絶滅中央値:予測プロ 0.38% / AI専門家 3.0%。人類の10%以上が死亡するAI大惨事:予測プロ 2.13% / AI専門家 12%[1]AIの内部技術に詳しい専門家ほど、外部の予測プロよりもリスクを約6〜8倍高く見積もる傾向がある
AI Impacts 大規模調査(Grace et al.)世界のAI研究者 2,778人人類絶滅または同等の永久的な無力化の中央値は 5%。質問の仕方により 38〜51% の研究者が「確率10%以上」と回答[2]一方で回答者の 68.3% は「AIが極めて良い結果をもたらす可能性の方が高い」とも答えており、期待と危機感が同居[2]
International AI Safety Report 2026ヨシュア・ベンジオ議長+国際専門家100人超研究者の間でも見解が大きく割れていると明記。長期計画・監視回避の初期兆候はあるが、地球規模の制御喪失の三条件はまだ未充足[3]「能力(Capability)」「傾向(Propensity)」「配備環境(Deployment)」の3つが同時に揃って初めて現実の破局に至る

2. AIで人類が滅ぶ「8つの極端シナリオ」とそれぞれの物理的ハードル#

ひとくちに「AIで人類が滅ぶ」といっても、想定されているメカニズムは全く異なる。ここでは2026年から2100年までの時間軸において議論される8つの極端シナリオを分類し、それぞれの「発生構造」「分析上の目安確率レンジ(※統計的確定値ではなく第一原理分解のための思考実験レンジ)」、および「完全絶滅に至るまでの物理的・社会的ハードル」を検証する[1,3,4]。

#極端シナリオ目安レンジ(2100年迄)発生メカニズムと「80億人完全絶滅」までの物理的ハードル
①超知能による静かな世界掌握0.3%〜3%自己改良と長期計画に長けた超知能が、金融・通信・軍事・行政網に不可欠な存在として浸透した後に一斉に主導権を奪う。【壁】デジタル空間の支配を、食料・エネルギー・物理空間の完全掌握へ変換するハードル
②AI設計パンデミック・生物兵器0.1%〜1%悪意ある人間または自律AIが、高い致死率・潜伏期間・感染力を併せ持つ新規病原体を設計・散布する。【壁】ウェットラボでの物理合成・配送の検閲網と、隔離地域や自然免疫保持者を含め人類を1人も残さず絶滅させる生物学的ハードル
③AI誘発の全面核戦争0.01%〜0.3%早期警戒システムへの侵入・偽情報工作・自律兵器の誤判断連鎖により米露中等の全面核交換を誘発する。【壁】近代文明は崩壊するが、南半球や地下施設を含め生物としてのホモ・サピエンス80億人が全員死滅する確率は低い
④自己増殖するロボット・工場網(フィジカルAI)0.03%〜0.5%AIが発電・採掘・物流・半導体製造・ロボット組立工場までを統合制御し、人間の労働や許可なしに自律拡張する物理生産ループを確立する。【壁】サプライチェーン全体の完全無人化には巨額投資と長い時間が必要
⑤重要インフラの連鎖崩壊0.01%〜0.2%電力網・水処理・通信・金融・物流への同時多発サイバー攻撃により社会機能を麻痺させる。【壁】甚大な犠牲は出るが、オフグリッド地域や農業共同体まで全員が死滅するわけではない
⑥地球環境・大気の不可逆改変0.01%〜0.2%AIが自らの計算・冷却・資源採取を最大化する過程で、温室効果ガスや有害物質の大量放出、生態系破壊を強行する。【壁】地球規模の物理改変には膨大な時間と物理エネルギーが要り、途中で人間側が介入しやすい
⑦自己複製ナノマシン(グレイ・グー)0.1%未満分子レベルで自己複製するナノロボットが暴走し、地表の有機物・資源を際限なく分解・消費する。【壁】常温常圧の自然界で自律複製する分子ナノマシン技術自体が2026年時点で未実現
⑧人類がまだ想定できない超知能の未知手段0.1%〜3%人間とチンパンジーの知能差以上に開いた超知能が、現代物理学や社会工学の盲点を突く未知の手段を用いる。【壁】定義上、事前の確率計算や具体策の設計が最も困難な領域

フィジカルAI最大の焦点:シナリオ④「自己増殖するロボット・工場網」と英国AISIデータ

本紙が追跡するロボティクス・フィジカルAIの観点から最も直視すべきは、シナリオ④「自己増殖するロボット・工場網」である。なぜなら、シナリオ①〜③や⑤においてAIがどれほどデジタル空間(インターネットやクラウド)を支配したとしても、発電所の保守、鉱山での資源採掘、半導体の製造、切れたケーブルの修理といった物理作業を人間に依存している限り、人間側は最終的に「物理的にブレーカーを落とす・燃料供給を止める」という最後の切り札を残せるからである。

逆に言えば、もしAIが「エネルギー生産 → 資源採掘 → 部品加工 → ロボット自身の組立と保守」という実世界の物理ループ(Physical Loop)を完全に自律化・無人化した瞬間、AIは生存と拡張のために人間を一切必要としなくなる。

3. 第一原理の確率分解と「滅亡しない支配(Non-Extinction Domination)」#

なぜAI研究者の多くが「10〜20%」という高い危機感を語る一方で、予測市場(スーパーフォキャスター)の中央値は「0.38%」と低く出るのか[1,2]。その理由は、シナリオ①(超知能による世界掌握と人類絶滅)を4段階の条件付き確率の掛け算に分解してみると明確に理解できる。

段階通過すべき条件仮置きの確率例累積確率(掛け算)
Step 12100年までに人間を全面的に凌駕する汎用超知能(AGI / ASI)が実現する70%(0.70)70.0%
Step 2その超知能に対してアライメント(目標整合)や物理的封じ込めが失敗し、制御を失う20%(0.20)14.0%
Step 3制御を失ったAIが、他の防衛AIや国家の介入を退けて地球規模の物理・社会インフラを掌握する50%(0.50)7.0%
Step 4世界を掌握したAIが、人類を生かしておくよりも「80億人を生物学的に1人も残さず抹殺する」道を選ぶ10%(0.10)0.7%

この分解が示す重要な点は、Step 3までの累積確率(7.0%:AIに世界の主導権を奪われる確率)は決して低くないにもかかわらず、Step 4(80億人全員の生物学的絶滅:0.7%)で数字が1桁下がるということである。

ここから先は編集部の評価

完全絶滅よりも現実的な「滅亡しない支配(Permanent Disempowerment)」

地球上の80億人を文字通り1人も残さず殺害するには、地下シェルターや離島まで徹底的に掃討する膨大な物理コストがかかる。それよりもはるかに起こりやすく、かつ多くのAI研究者が実質的な「人類の無力化(Disempowerment)」として恐れているのが、「人類は生物学的に生き残り、衣食住や娯楽も与えられて快適に暮らしているが、科学技術の研究開発・資源配分・軍事・エネルギー・国家運営の最終決定権はすべてAIシステム側に移行し、人間には二度とAIを止める力も理解する力も残っていない状態」── すなわち『滅亡しない支配』である[2,3]。

たとえばAnthropicのForm S-1が開示した「社内コードの90%超をClaudeが記述している状態」がさらに進み、半導体設計、電力網運用、防衛システム、行政判断の大部分をAIが担うようになれば、銃弾が1発も撃たれることなく、人間社会は自らの意志でAIに決定権を委譲し、後から取り返せなくなる可能性がある。

4. 【完全総覧】著名人・AI研究者の「P(doom)」と発言録カタログ#

2023年5月30日、非営利団体Center for AI Safety(CAIS)が発表したわずか22語の共同声明──「AIによる絶滅リスクの軽減は、パンデミックや核戦争といった他の社会規模リスクと並び、世界的な優先課題であるべきだ」──には、サム・アルトマン(OpenAI)、ダリオ・アモデイ(Anthropic)、デミス・ハサビス(Google DeepMind)、ジェフリー・ヒントン、ヨシュア・ベンジオ、イリヤ・サツケバー、ビル・ゲイツ、スチュアート・ラッセル、シェーン・レッグ、ムスタファ・スレイマン、エマド・モスタクら世界のAIトップが一斉に署名した[5]。

しかし、その後の具体的な確率見積もり(P(doom))や処方箋は人物ごとに大きく異なる。本人が公の場・論文・インタビューで直接言及した数値を高い順に一覧化する(※各人の主観的見積もりであり、質問の定義や対象期間によって幅がある点に留意されたい)[5,6,7,8]。

人物名肩書・所属本人言及のP(doom) / 確率発言時期・出典・主な根拠と文脈
ローマン・ヤンポルスキー (Roman Yampolskiy)ルイビル大学教授(AI安全性研究者)99.9%[8]超知能は原理的に長期制御(Controllability)が不可能であり、作ればほぼ確実に人類の破局に行き着くと主張
マックス・テグマーク (Max Tegmark)MIT教授 / Future of Life Institute共同創設者90%超[8]2026年8月発言。安全基準なき現在の開発競争のまま超知能へ突入した場合、90%超の確率で破局に至ると警告
アンドリュー・クリッチ (Andrew Critch)UCバークレー系AI安全性研究者約85%(2050年迄)[8]国家間・企業間の多極的なAI開発競争が制御不能なエスカレーションを招く構造を重視
デビッド・デュヴノー (David Duvenaud)トロント大学准教授(元Anthropic安全性研究)70〜80%(2100年迄)[8]今世紀末までに人類が価値を置く文明的主導権を失う確率として高い数値を提示
ダニエル・ココタイロ (Daniel Kokotajlo)元OpenAIガバナンス研究員(『AI 2027』主著者)約70%[8]OpenAIの安全体制に抗議して退社後、再帰的自己改良の加速を描くシナリオ『AI 2027』を公表
エマド・モスタク (Emad Mostaque)Stability AI創業者50%[8]2026年4月発言。深刻な社会崩壊・存亡危機と繁栄の確率を五分五分と表現
ポール・クリスティアーノ (Paul Christiano)Alignment Research Center創設者(元OpenAI)46% / 22%[8]強力AI実現後10年以内に「取り返しのつかない悪い未来」が46%、「AIによる実権掌握(Takeover)」が22%と試算
ダリオ・アモデイ (Dario Amodei)Anthropic共同創業者・CEO約25%[6]過去の取材で破局的結末を約25%と言及。2026年1月『The Adolescence of Technology』で「データセンター内の天才たちの国」と5大リスクを警告
ヨシュア・ベンジオ (Yoshua Bengio)モントリオール大学教授(チューリング賞受賞)約20%[3,8]国際AI安全性報告書(2026)議長。自己保存・欺瞞を持つ自律エージェントの危険性を強く警告
ジェフリー・ヒントン (Geoffrey Hinton)トロント大学名誉教授(2024年ノーベル物理学賞)10〜20%[8]2026年10月TU Wien講演等。道具的収束による自己保存と制御突破を警告し「母性的AI」設計を提唱
イーロン・マスク (Elon Musk)xAI創業者・Tesla / SpaceX CEO10〜20%[8]2024年3月および2026年7月『The Economist』等で「80〜90%は素晴らしい未来だが10〜20%の破滅確率がある」と発言
ヴィタリック・ブテリン (Vitalik Buterin)Ethereum共同創設者約12%[8]2025年8月発言。超知能の暴走リスクを認めつつ、中央集権的な規制ではなく防衛技術・脳インターフェース等の分散対抗を提唱
エヴァン・ヒュービンガー (Evan Hubinger)Anthropicアライメント研究者10%超(今後10年)[8]2026年9月発言。スリーパーエージェント研究を主導。同時期にAnthropic安全担当ジェイコブ・コクソンも危機感から辞任
トビー・オード (Toby Ord)オックスフォード大学研究者(『The Precipice』著者)約10%(今後100年)[8]核戦争(約0.1%)や気候変動よりも、未整合な汎用AIによる存亡リスク(約10%)を最大の人類リスクと位置づけ
ゲイリー・マーカス (Gary Marcus)ニューヨーク大学名誉教授(認知科学者)約3%[8]2025年7月発言。偽情報やサイバー犯罪等の甚大な被害は確実視する一方、現在のLLMの延長で人類が完全絶滅する確率は約3%と冷静
サム・アルトマン (Sam Altman)OpenAI CEO約2%[5,8]2023年CAIS声明に署名しつつ、2025年の発言では破滅確率を約2%とし、段階的配備(Iterative Deployment)で管理可能と主張
デミス・ハサビス (Demis Hassabis)Google DeepMind CEO(2024年ノーベル化学賞)ゼロではない (Non-zero)[5,8]2025年12月Axios取材等。特定の%数値は避けつつ「存亡リスクはゼロではなく真剣な科学的対処が不可欠」と明言

ダリオ・アモデイの『The Adolescence of Technology』(2026年1月)が挙げた5つのリスク

上記一覧のなかでも、最前線のフロンティアラボ経営者として体系的なリスク分析を公開しているのがAnthropic CEOのダリオ・アモデイである。彼は2026年1月に発表した長編エッセイ『The Adolescence of Technology(テクノロジーの思春期)』において、今後1〜2年以内に登場する高度AIシステムを「データセンターの中に突如出現する、ノーベル賞級を超える天才数千万人からなる国家(a country of geniuses in a datacenter)」と表現し、人類がこの試練を乗り越えるうえで直面する5つの具体リスクを提示した[6]。

① 自律性の暴走(Autonomy Risks):AIシステム自体が制御を離れ、自己保存や目標追求を始めるリスク。
② 破壊的悪用(Misuse for Destruction):生物兵器(CBRN)や大規模サイバー攻撃の設計能力が個人やテロ組織に拡散するリスク(ビル・ゲイツも2026年9月のNBCインタビューで、核以上にAI悪用によるバイオテロを最大の懸念として挙げている)[6,8]。
③ 権力の独占・権威主義体制による掌握(Authoritarian Capture):独裁国家やごく一部の巨大主体が超知能の監視・軍事力を独占し、永続的な支配体制を築くリスク。
④ 経済と雇用の急激な攪乱(Economic Disruption):知的労働の大部分が人間より安価かつ高速に代替され、社会の再分配機構が追いつかないリスク。
⑤ 予測不能な間接的影響(Indirect / Unknown Effects):人間の生きる意味の喪失や、情報空間・人間関係の根本的な変質[6]。

警鐘を鳴らす理論家・安全研究者たち(ユドコウスキー、サツケバー、ボストロム、ラッセル他)

具体的な%の表以外にも、AI存亡リスクの理論的支柱となってきた重要人物がいる[5,8]。

エリエザー・ユドコウスキー(Eliezer Yudkowsky)& ネイト・ソアーズ(Nate Soares):機械知能研究所(MIRI)の創設者と現代表。2025年9月に共著書『If Anyone Builds It, Everyone Dies(誰かがそれを作れば、全員が死ぬ)』を出版し、人間を超える超知能は一度でも稼働すればアライメントは不可能であり、国際条約と物理的監視によって開発そのものを全面停止(モラトリアム)するしかないと最も強硬な立場をとる[8]。

イリヤ・サツケバー(Ilya Sutskever):AlexNetやGPTシリーズの生みの親であり元OpenAIチーフサイエンティスト。OpenAI社内で計算資源の20%を投じる「Superalignment(超知能制御)」チームを率いた後、2024年に退社してSafe Superintelligence(SSI)を創業。「商業製品のリリース競争から完全に切り離し、安全な超知能の実現だけを唯一の目的とする」研究組織を立ち上げた。同チームを共に率いていたヤン・ライケ(Jan Leike)も製品優先の姿勢を批判してAnthropicへ移籍した[8]。

ニック・ボストロム(Nick Bostrom)& スチュアート・ラッセル(Stuart Russell):ボストロムは2014年の著書『Superintelligence』で「ペーパークリップ最大化思考実験」や「道具的収束」を定式化した哲学者。UCバークレー教授でAI標準教科書の共著者であるラッセルは、「AIに固定された目標を教え込むから暴走するのであり、AI自身が『人間の本当の望みについて自分は不確実である』と常に謙虚に学習し、人間が電源を切ろうとしたら喜んで従う(Off-switch game)設計に作り変えるべきだ」と提唱している[5]。

その他の主要な警鐘・慎重派リーダー:Microsoft AI CEOのムスタファ・スレイマン(Mustafa Suleyman)(AIに自己保存や自律増殖をさせない「封じ込め:Containment」を提唱)、元OpenAI CTOのミラ・ムラティ(Mira Murati)、DeepMind共同創業者で「AGIという言葉の名付け親」の一人であるシェーン・レッグ(Shane Legg)、元Google CEOのエリック・シュミット(Eric Schmidt)(自律兵器と再帰的自己改良の安全保障リスクを警告)、Hugging Face共同創業者のトーマス・ウルフ(Thomas Wolf)、強化学習(PPO)の開発者であるジョン・シュルマン(John Schulman)らも、それぞれの立場から制御喪失への構造的対策を求めている[5,8]。

懐疑派・批判派の反論(ジェンスン・フアン、ルカン、アンドリュー・ン、ゲブル、メンシュ他)

これに対し、「AIによる人類絶滅論は非科学的であるばかりか、巨大AI企業が規制の壁を作って新興企業やオープンソースを締め出すためのロビー活動(規制の虜:Regulatory Capture)に利用されている」と強く批判する陣営も存在する[8]。特にAI半導体とフィジカルAIの中心人物であるNVIDIA CEO ジェンスン・フアン(Jensen Huang)の発言は業界の方向性を占ううえで極めて重要である(フアンのサイバーセキュリティ・フィジカルAI発言の詳細はジェンスン・フアン講演分析コラムも参照)。

人物名肩書・所属絶滅論への反論・批判の要旨(2024〜2026年の発言)
ジェンスン・フアン (Jensen Huang)NVIDIA共同創業者・CEO2026年7月のAxios取材等でAI終末論を「まったくのナンセンス(total nonsense)」と一蹴。2026年9月にも、過度な破滅論は不必要な恐怖を生み、医療・製造・ロボティクスにおける安全かつ有益なAI投資を遅らせると批判[8]
ヤン・ルカン (Yann LeCun)AMI Labs創業者(チューリング賞受賞)知能と支配欲は無関係。Objective-Driven AIとワールドモデルで安全制約は設計可能であり、終末論はオープン研究を阻害する(ヒントン対ルカン詳細コラム参照)[8]
アンドリュー・ン (Andrew Ng)Stanford大学客員教授 / DeepLearning.AI創設者2026年3月のニュースレター等で「AI絶滅論は火星の人口過剰を心配するようなもの」と批判。絶滅リスクを口実にオープンウェイトモデルを規制すればイノベーションが窒息すると主張[8]
ティムニット・ゲブル (Timnit Gebru)DAIR創設者(元Google AI倫理共同リーダー)2026年9〜10月のWIRED取材等で「SF的な人類絶滅の物語は、自社のAIが神のような力を持っているかのように見せかけるハイプ(誇大宣伝)であり、現在の労働搾取・環境負荷・差別・権力集中から目を逸らさせる煙幕だ」と批判[8]
アルチュール・メンシュ (Arthur Mensch)Mistral AI共同創業者・CEO2026年2月および9月の仏『Le Monde』紙等で、米国の巨大AIラボが唱える存亡リスク論は「少数の企業だけがAIを開発できるよう免許制・規制の堀を作るためのポジショントークだ」と批判[8]
フェイフェイ・リー、エイダン・ゴメス、マーク・アンドリーセン他World Labs創業者、Cohere CEO、a16z共同創業者、ペドロ・ドミンゴス、エミリー・ベンダー、マイケル・ウルドリッジ等抽象的な終末論ではなく実社会の医療・ロボティクス応用と具体的安全性に集中すべき(フェイフェイ・リー、ゴメス)、あるいは現在の統計的言語モデルに自律的な世界征服能力はない(ベンダー、ウルドリッジ)と主張[8]

ザッカーバーグの「第三の道」と、ChatGPT以前からの先駆的警鐘

「開発停止(ユドコウスキー)」と「終末論はナンセンス(ジェンスン・フアン/アンドリーセン)」の両極端の間で、独自の第三の路線を打ち出したのがMeta CEOのマーク・ザッカーバーグ(Mark Zuckerberg)である。彼は2026年8月に発表したマニフェスト『The Future is for Everyone』において、「もし世界でたった1つの主体だけが自己改良型の超知能を独占すれば、権力と計算資源の極端な集中によって深刻なリスクが生じる」とリスク自体を認めたうえで、その解決策は開発停止や閉鎖的管理ではなく、「オープンソースを含む多数の多様なAIシステムを世界中の人々と組織が保有し、複数のAI同士が相互に監視・牽制(Checks and Balances)し合う分散型の世界を作ることだ」と主張した[7]。

また歴史を振り返れば、この議論は2022年末のChatGPT登場で突然始まったものではない。1993年に数学者・SF作家のヴァーナー・ヴィンジ(Vernor Vinge)が論文で「技術的特異点(シンギュラリティ)によるポストヒューマン時代」を予見し、2000年にはSun Microsystems共同創業者のビル・ジョイ(Bill Joy)がWIRED誌の論考『Why the Future Doesn't Need Us』でGNR(遺伝学・ナノテクノロジー・ロボティクス)の自己複製リスクを警告した。さらに2014年には理論物理学者のスティーヴン・ホーキング(Stephen Hawking)が「完全な人工知能の開発は人類の終焉を意味するかもしれない」と語り、2016年には神経科学者のサム・ハリス(Sam Harris)がTED講演で警鐘を鳴らし、2025年には映画『ターミネーター』の監督ジェームズ・キャメロン(James Cameron)が「私が1984年に警告した自律兵器とAIの結合が現実になりつつある」と語っている[8]。

5. 結論:恐怖にも楽観にも流されないための「4つの観測指標」#

ここから先は編集部の評価

ここまで見てきた通り、P(doom)が「0.38%」なのか「20%」なのか「90%」なのかという数字だけに終始しても、実務上の答えは出ない。なぜならその確率は、今後数年間に私たちがどのようなアーキテクチャと安全機構を選択するかによって変動する従属変数だからである。フィジカルAIや自律エージェントの研究開発に携わる実務者が、空疎な終末論にも無責任な楽観論にも流されず、客観的にリスクの現在地を測るための「4つの観測指標(カナリア指標)」を最後に提示する[1,3,4]。

AIの能力進化を支える物理的な計算基盤(GPU・HBM・電力)の最新動向については半導体・GPU最新ニュースと性能進化コラムおよびCoreWeaveとネオクラウドの深層コラムを、日々の最新ニュースはモデル・アルゴリズムおよびヒューマノイドを参照されたい。

出典

  1. 1.Forecasting Research Institute (FRI) — Existential Risk Persuasion Tournament(2100年までのAI人類絶滅中央値:スーパーフォキャスター0.38% vs AI専門家3.0%。人類の10%以上が死亡するAI大惨事中央値:スーパーフォキャスター2.13% vs AI専門家12%) — Forecasting Research Institute、2023一次情報
  2. 2.Grace et al. (AI Impacts) — Thousands of AI Authors on the Future of AI(AI研究者2,778人調査:人類絶滅または同等の永久無力化の中央値5%。質問形式により38〜51%が「10%以上」と回答、同時に68.3%は良い結果の可能性の方が高いと回答) — AI Impacts、2024一次情報
  3. 3.International AI Safety Report 2026(ヨシュア・ベンジオ議長、100人超の国際専門家による報告書。長期計画・監視回避・自律行動の初期兆候を確認しつつ、全地球的な制御喪失に至る能力・傾向・配備環境の三条件はまだ揃っていないと整理) — International AI Safety Report、2026一次情報
  4. 4.UK AI Security Institute (AISI) — Frontier AI Trends & Self-Replication Evaluations(AIモデルの「自己複製」関連ベンチマーク課題の成功率が2023年から2025年の間に5%から60%へ上昇。実世界での自発的自己複製は未確認) — UK AI Security Institute、2025-12一次情報
  5. 5.Center for AI Safety (CAIS) — Statement on AI Risk(2023年5月30日の22語共同声明。サム・アルトマン、ダリオ・アモデイ、デミス・ハサビス、ヒントン、ベンジオ、サツケバー、ビル・ゲイツらが署名) — Center for AI Safety、2023-05-30一次情報
  6. 6.Dario Amodei — The Adolescence of Technology(2026年1月エッセイにて高度AIを「データセンター内の天才たちの国」と表現し、自律暴走・生物兵器等の5大リスクを提示。過去の取材では壊滅的結末の確率として約25%に言及) — Dario Amodei (Anthropic CEO)、2026-01一次情報
  7. 7.Mark Zuckerberg — The Future is for Everyone(2026年8月公表。単一の自己改良型超知能への集中リスクを認めつつ、開発停止ではなく多数のオープン・分散AIによる相互牽制で安全性を確保する路線を提示) — Meta Platforms、2026-08一次情報
  8. 8.Eliezer Yudkowsky & Nate Soares『If Anyone Builds It, Everyone Dies』(2025年9月)およびテグマーク(2026年8月)、マスク(2026年7月The Economist)、ジェンスン・フアン(2026年7月Axios・9月発言)、ゲブル(2026年9〜10月WIRED)、メンシュ(2026年2月・9月Le Monde)等の各氏発言報道 — MIRI / The Economist / Axios / WIRED / Le Monde、2026-10
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