何が起きたか

PFNは2026年6月1日、トヨタ自動車の研究組織である未来創生センターと、PFNが開発中の推論向けAI半導体MN-Core Lシリーズを用いた推論処理の高速化に関する共同研究を開始した。PFNはMN-Core Lシリーズに必要なソフトウェアを提供し、トヨタ未来創生センターはロボットに求められる推論処理を同シリーズで高速化する研究を進める。2027年のMN-Core Lシリーズ出荷後にはロボットを実環境で動かして検証し、研究結果を2027年中に随時公開する予定。

詳細

MN-Core Lシリーズは、従来品より高速かつ低消費電力で生成AIの推論処理ができるよう設計された新しいアーキテクチャのAI半導体で、初期モデルとしてMN-Core L1100(省電力版)とMN-Core L1400(高性能版)を2027年に発売予定。生成AIの推論ではメモリ帯域幅がボトルネックとなるが、同シリーズは最新機種MN-Core 2の50倍以上の帯域幅を目標に開発。GDDRやHBMを用いたGPUと異なり、比較的安価で大容量のDRAMとPFN独自のMN-Coreアーキテクチャのロジック半導体を垂直に積層することで、HBMを超える高帯域幅メモリを実現する。SRAM主体のAI半導体よりメモリ容量が大きく、大規模システム構成を不要とし、700億パラメータのLLMの推論に必要なメモリ帯域幅と容量をMN-Core L1400のカード1枚でまかなえる設計。トヨタ未来創生センターは2012年発表の生活支援ロボットHSRを用いた遠隔操作実証や動作データの大規模学習、ロボット基盤モデルの共創研究を進めており、オンプレミス環境での高速推論が不可欠としている。

Key Facts

PFNは2026年6月1日、トヨタ未来創生センターとMN-Core Lシリーズを用いたフィジカルAI高速化の共同研究を開始した。[4]
MN-Core Lシリーズは2027年に出荷・発売予定で、初期モデルはMN-Core L1100(省電力版)とMN-Core L1400(高性能版)。[4]
MN-Core LシリーズはMN-Core 2の50倍以上のメモリ帯域幅を目標に開発されている。[4]
MN-Core L1400は700億パラメータのLLMの推論に必要なメモリ帯域幅と容量をカード1枚でまかなえる設計。[4]
トヨタ未来創生センターは生活支援ロボットHSRを用いた遠隔操作実証やロボット基盤モデルの共創研究を進めている。[4]

本紙の見方

今回の共同研究は、PFNが開発中のAI半導体MN-Core Lシリーズを、トヨタのロボット研究という具体的な実環境に適用する点で、単なる技術提携を超えた意味を持つ。MN-Core Lシリーズは、生成AIの推論におけるメモリ帯域幅のボトルネック解消を目指し、MN-Core 2の50倍以上の帯域幅を目標とする。この数値は、同シリーズが従来のAI半導体と一線を画す性能を狙っていることを示す。特に、700億パラメータのLLMをカード1枚でまかなえる設計は、大規模モデルをエッジで動かす際の構成を大幅に簡素化する可能性があり、ロボットへの搭載を現実的にする。 本紙の過去報道との接続では、2026年2月16日に報じた経産省とNEDOのフィジカルAI国家プロジェクトの詳細発表が、今回の動きの背景にあるとみられる。PFNは2026年7月16日、NoetraによるフィジカルAI向け国産マルチモーダル基盤モデル開発に参画しており、そこでは岡野原大輔社長がNEDO事業の共同研究開発統括責任者を務める。今回のトヨタとの共同研究は、こうした国家プロジェクトと並行して、PFNが自社のAI半導体を実ロボットに適用する実証の場を確保するものだ。 業界構造への含意として、MN-Core LシリーズはGPUと異なり、DRAMとロジック半導体の垂直積層という独自構造を採用する。これは、HBMを用いるGPUやSRAM主体のAI半導体とは異なるアプローチで、メモリ帯域幅と容量の両立を図る。ロボットのエッジ推論では、消費電力とリアルタイム性が重視されるため、この独自構造が競争優位になる可能性がある。一方で、ソフトウェアエコシステムの成熟度が課題で、PFNがソフトウェアを提供し、トヨタが実環境で検証する今回の役割分担は、その課題を克服するための布石とみられる。 未確定の論点としては、MN-Core Lシリーズの実際の性能がMN-Core 2の50倍以上の帯域幅を達成できるか、また2027年の出荷が予定通り進むかが挙げられる。さらに、トヨタのロボット基盤モデルへの適用結果が、今後の量産や他社への展開にどうつながるかも注目される。

なぜ重要か

PFNとトヨタの共同研究は、国産AI半導体を実ロボットに適用する初の具体的事例であり、日本のフィジカルAI競争力の行方を左右する。MN-Core Lシリーズの性能が実証されれば、ロボットのエッジ推論におけるGPU依存からの脱却につながり、日本のAIサプライチェーン全体に影響を与える。

日本への影響

MN-Core Lシリーズは、HBMやGDDRを用いるGPUとは異なり、比較的安価なDRAMと独自ロジックの積層で高帯域幅を実現する。これは、日本の半導体産業にとって、メモリとロジックの垂直統合という新たな設計・製造の可能性を示す。特に、DRAMは日本が強みを持つ分野であり、MN-Core Lシリーズの量産が実現すれば、国内の半導体製造基盤の活用につながる可能性がある。