何が起きたか
パナソニック オートモーティブシステムズは2026年8月3日、シリーズハイブリッド車のロードノイズとエンジンノイズの双方に対応する世界初(※)の統合型アクティブ・ノイズ・コントロール(ANC)を開発し、日産自動車の新型「エルグランド」のXグレードおよびGグレードの標準オーディオ仕様に採用されたと発表した。本統合型ANCは今回初めて量産車に搭載される。
詳細
本システムは、車両走行時に車内に伝わる路面からの振動に起因するロードノイズと、エンジンから伝達される振動に起因するエンジンノイズをリアルタイムで低減する。車両各所に搭載された加速度センサーで騒音と高い相関を持つ振動を検知し、独自の信号処理アルゴリズムで騒音を予測・演算、車載スピーカーから逆位相の制御音を生成して放射する。従来、エンジン騒音は主に200Hz以下の低周波数帯域を対象とした狭帯域の専用制御方式で対応されてきたが、本技術では加速度センサーを活用した制御系と車載オーディオシステムを統合的に用いることで、ロードノイズとエンジンノイズから発生する広帯域の騒音を同一システムで制御する。ロードノイズやエンジンノイズに起因しない音声は低減対象としないため、車内の音楽・会話・通話をクリアに聞くことができる。同社はこれまで国内外の自動車メーカー5社以上・60車種以上にANCを採用しており、2027年4月1日より社名を「モビテラ株式会社」に変更する。
Key Facts
| パナソニック オートモーティブシステムズは、シリーズハイブリッド車のロードノイズとエンジンノイズの双方に対応する世界初の統合型ANCを開発した(2026年7月現在、当社調べ)。 | [1] |
| 本統合型ANCは、日産自動車の新型「エルグランド」のXグレードおよびGグレードの標準オーディオ仕様に採用され、今回初めて量産車に搭載される。 | [1] |
| 本技術は、加速度センサーを活用した制御系と車載オーディオシステムを統合的に用いることで、ロードノイズとエンジンノイズから発生する広帯域の騒音を同一システムで制御する。 | [1] |
| 同社はこれまで国内外の自動車メーカー5社以上・60車種以上にANCを採用している。 | [1] |
| 同社は2027年4月1日より社名を「モビテラ株式会社」に変更する。 | [1] |
本紙の見方
今回の発表は、パナソニック オートモーティブシステムズが長年蓄積してきたANC技術を、シリーズハイブリッド車という特定のパワートレイン向けに統合・高度化した点で新規性がある。従来、ロードノイズとエンジンノイズは周波数特性が異なるため別々の制御方式が必要とされ、特にロードノイズはランダムかつ広帯域なためリアルタイム制御が難しいとされてきた。本技術は、加速度センサーと車載オーディオシステムを統合的に用いることで、両ノイズを同一システムで制御する点が特徴であり、これは制御アルゴリズムとセンサー・スピーカー配置の最適化といった、同社の車両開発初期段階からの参画によって実現された。 本紙の過去記事(2026年2月16日付『日本政府、フィジカルAI国家プロジェクトの姿が明らかに』)では、政府主導のフィジカルAIプロジェクトが示されたが、今回のANCはそのような国家プロジェクトとは直接関係のない、民間企業単独の技術開発である。しかし、車載センサーとリアルタイム制御の組み合わせは、フィジカルAIの応用領域の一つである自動運転や高度運転支援にも通じる基盤技術であり、今後の展開が注目される。 業界構造への含意として、まずANCの採用実績が国内外5社以上・60車種以上に達している点は、同社が車載騒音制御市場で確固たる地位を築いていることを示す。今回の統合型ANCは、シリーズハイブリッド車という電動化の流れの中で需要が高まる領域に照準を合わせたものであり、競合他社に対する技術的優位性をさらに強化する可能性がある。また、車両ごとに異なる音響特性・車体振動特性・スピーカー特性を解析し、センサーやマイクの最適配置を提案するソリューションは、自動車メーカーにとって設計自由度の拡大につながる。 一方、未確定の論点としては、本統合型ANCの具体的な低減効果の数値(デシベル値など)が公開されていないこと、今後の他車種への展開計画が明らかでないこと、そして2027年の社名変更に伴う事業戦略の変化が挙げられる。特に、社名変更は単なる名称変更に留まらず、モビリティ事業の再編や新たな方向性を示唆する可能性があり、今後の発表が待たれる。
なぜ重要か
本技術は、シリーズハイブリッド車という電動化の過渡期にあるパワートレインにおいて、車内静粛性という快適性の向上を実現するものであり、自動車の価値向上に直結する。また、パナソニックが車載事業を「モビテラ」として再編する中で、ANC技術が同事業の競争力の核となる可能性を示している。
日本への影響
日本の自動車部品サプライヤーであるパナソニックが、世界初の統合型ANCを開発し、日産の量産車に搭載したことは、日本の車載技術の競争力を示す一例である。特に、シリーズハイブリッド車は日本の自動車メーカーが強みを持つ領域であり、その静粛性を高める技術は、日本車の商品力向上に寄与する。また、同社のANC採用実績が国内外5社以上・60車種以上に及ぶことは、日本のTier1サプライヤーがグローバル市場で存在感を発揮していることを示す。