何が起きたか
具身知能(embodied AI)企業の原力无限(INFIFORCE)は2026年8月14日、総額約10億元(約200億円)のAラウンドおよびA+ラウンド調達を完了したと発表した。資金調達の主な使途は、具身大脳「AtomBrain」と因果世界モデルの研究開発、全スタックAIインフラ「DataGrid」の継続的強化、多形態ロボット本体の実産業シーンでの規模化された納品と検証。同社は2023年8月に前アリババグループ副総裁の白惠源博士が創業し、Ego(第一人称視点)データを核とした独自の具身基礎モデルを開発している。
詳細
原力无限は2026年8月14日、AラウンドおよびA+ラウンドで総額約10億元を調達した。リード投資家は敦鸿資産と国有プラットフォーム(头部国資平台)で、浙大科創集団、盐都国控、丽水市国資公司などがフォローし、既存株主の創世伙伴創投CCVも追加出資した。資金は主に、具身大脳「AtomBrain」と因果世界モデルの研究開発、全スタックAIインフラ「DataGrid」の継続的強化、多形態ロボット本体の実産業シーンでの規模化された納品と検証に充当する。 同社は2023年8月に前アリババグループ副総裁の白惠源博士が創業。CTOの王一舟氏はカリフォルニア大学バークレー校博士で、百度IDL自動運転チームの初期コアメンバー、NVIDIA DriveAVコアメンバーを歴任。首席科学者の陳佳玉氏は北京大学卒、パデュー大学博士で香港大学助理教授。公開報道によると、修士・博士人材の割合は75%超。 技術面では、Ego(第一人称視点)データを核とした「Atomシリーズ」具身モデルを開発。自社の原生具身基礎モデル「AtomVLA」はLIBEROベンチマークで97.0%のタスク成功率、自社の階層記憶ゲート世界動作モデル「HiMem-WAM」はLIBEROで97.7%、困難な実タスクの平均性能は業界主流ベースライン「π0.5」より約22.5%高いとされる。2026年6月には、具身知能向けエンドツーエンド訓練システム「DataGrid」を発表し、具身知能分野の「Hugging Face」と位置づけている。 製品面では、FORCEシリーズ智能充電ロボットが2025年末までに300台を納品し、全国20以上の都市、90以上の主要顧客にサービスを提供、実際の注文は20万件を突破。杭州東駅や銀泰百貨などの高人流シーンで日常運用に組み込まれている。その後、車輪式人形ロボット「AstroDroid AD-01」、小型二足ロボット「小原子(YUANZI)」、UltraDroid全シリーズ多形態汎用ロボットを発表。商業化は全国30以上の都市、100以上の実シーンで展開中。
Key Facts
| 原力无限は2026年8月14日、総額約10億元のAラウンドおよびA+ラウンド調達を完了したと発表した。 | [1] |
| リード投資家は敦鸿資産と国有プラットフォームで、浙大科創集団、盐都国控、丽水市国資公司などがフォローし、創世伙伴創投CCVが追加出資した。 | [1] |
| 資金は主に具身大脳「AtomBrain」と因果世界モデルの研究開発、全スタックAIインフラ「DataGrid」の強化、多形態ロボットの実産業シーンでの規模化された納品と検証に充当する。 | [1] |
| 同社の原生具身基礎モデル「AtomVLA」はLIBEROベンチマークで97.0%のタスク成功率を達成したとされる。 | [1] |
| FORCE系列智能充電ロボットは2025年末までに300台を納品し、全国20以上の都市、90以上の主要顧客にサービスを提供、実際の注文は20万件を突破した。 | [1] |
本紙の見方
今回の調達の主軸は、ロボット本体の量産ではなく「具身知能の脳」への集中投資にある。総額約10億元のうち、具体的な内訳は公表されていないが、使途として挙げられた「AtomBrain」「因果世界モデル」「DataGrid」はいずれもソフトウェア・データ基盤であり、多形態ロボット本体の「規模化された納品と検証」はその後段に位置づけられる。つまり、名目上はロボット企業の資金調達だが、実質的にはAIの計算・データ基盤への投資が主役とみられる。 この戦略は、本紙が2026年8月14日に報じたLGの垂直統合路線(アクチュエータ内製、データファクトリー稼働)と対照的だ。LGがハードウェアの内製とデータ収集を一体化させるのに対し、原力无限はハードウェアを造らず「脳」に特化する。これは2026年8月22日に報じた索塔无界の「ロボットの脳」特化戦略と同型であり、中国の具身知能業界で「脳」と「身体」の分離が進んでいることを示す。 原力无限の独自性は、データ収集の方法論にある。同社は2025年からEgo(第一人称視点)データ路線を主攻し、従来の第三人称デモデータではなく、人間の実際の作業を第一人称視点で収集する。このデータは「人間の日常業務で大規模に高品質に生成できる」とされ、従来の実機収集より低コストで多様性が高いという。この点は、欧州規制を逆手に取ってデータ収集を現地化した索塔无界の事例と並び、データ戦略が競争軸になっていることを示す。 一方で、同社の主張するベンチマーク成績(AtomVLAのLIBERO 97.0%、HiMem-WAMの97.7%など)は企業自身の公表値であり、第三者検証は未確認だ。また、2026年の営業収益1億元超、汎用ロボット出荷500〜1000台という見通しは、聯合創始者の劉揚氏の発言であり、実績ではない。 業界構造への含意として、原力无限の「DataGrid」が具身知能分野の「Hugging Face」を標榜する点は重要だ。もしDataGridが標準的な訓練基盤として普及すれば、ロボット開発の参入障壁が下がり、ハードウェア専業メーカーが「脳」を外部調達する動きが加速する可能性がある。これは、LGのような垂直統合型と、原力无限のような水平分業型の2つの路線が並存する構図を生む。 未確定の論点としては、まず調達資金の具体的な配分比率が挙げられる。約10億元のうち、モデル開発とインフラ強化にどれだけ充てられるかは公表されていない。また、Egoデータの収集規模や品質、DataGridの利用者数も不明だ。さらに、FORCEシリーズの300台納品は実績だが、汎用ロボット(AstroDroid、小原子など)の量産台数は2026年の見通しであり、実際の受注・納品状況は今後の発表を待つ必要がある。
なぜ重要か
原力无限の調達は、具身知能業界が「ハードウェア競争」から「データ・モデル競争」へ軸足を移しつつあることを示す。同社がEgoデータと因果世界モデルに集中投資する戦略は、ロボットの「身体」と「脳」の分業を促進し、今後の業界構造を左右する可能性がある。投資家や競合他社は、この「脳」特化モデルが実産業シーンでどの程度の成果を上げるか注視する必要がある。
日本への影響
原力无限のEgoデータ戦略は、データ収集の低コスト化を狙うものであり、日本の製造業やサービス業におけるロボット導入の在り方にも示唆を与える。特に、同社が「人間の日常業務でデータが生成できる」と主張する点は、日本の現場作業のデジタル化に応用可能な可能性がある。ただし、具体的な日本市場への展開は発表されておらず、現時点での影響は限定的とみられる。