何が起きたか
ソフトバンクグループ(SBG)は2025年10月8日、スイスのABB Ltdからロボティクス事業を総額53.75億米ドル(約8187億円、1ドル=152.31円換算)で買収する最終契約を締結した。買収対象はABBがカーブアウトして新設する持株会社で、SBGは子会社を通じて全株式を取得し、同社を子会社化する。買収完了は2026年半ばから後半を予定しており、EU・中国・米国などの規制当局の承認が条件となる。ABBロボティクス事業の従業員数は約7000人で、2024年12月期の売上高は22.79億米ドル、EBITDAは3.13億米ドルだった。
詳細
買収対象となる持株会社は、所在地がスイス・チューリッヒ、代表者はMarc Segura氏(現ABB Robotics Division President)。事業内容は産業用ロボットの開発・製造・販売。ABBロボティクス事業の直近3年間(米国会計基準、プロフォーマ、非監査)の経営成績は、売上高が2022年12月期22.58億米ドル、2023年12月期24.52億米ドル、2024年12月期22.79億米ドル。EBITDAは同期間に2.21億米ドル、3.85億米ドル、3.13億米ドル。Operational EBITAは1.86億米ドル、3.49億米ドル、2.77億米ドル。純資産は6.42億米ドル、7.85億米ドル、7.70億米ドル。買収後、ABBロボティクスのプラットフォームは、SBGの既存ロボティクス関連投資(ソフトバンクロボティクスグループ、Berkshire Grey、AutoStore、Agile Robots SE、Skild AIなど)の技術基盤で補完される。SBGは買収をAIロボット事業の強化と位置づけ、人工超知能(ASI)実現に向けた4分野(AIチップ、AIロボット、AIデータセンター、電力)の戦略の一環としている。
Key Facts
| ソフトバンクグループは2025年10月8日、ABBのロボティクス事業を総額53.75億米ドル(約8187億円)で買収する最終契約を締結した。 | [2] |
| 買収対象はABBがカーブアウトして新設する持株会社で、SBGは子会社を通じて全株式を取得し、子会社化する。 | [2] |
| 買収完了は2026年半ばから後半を予定しており、EU・中国・米国などの規制当局の承認が条件。 | [2] |
| ABBロボティクス事業の従業員数は約7000人で、2024年12月期の売上高は22.79億米ドル、EBITDAは3.13億米ドル。 | [2] |
| 孫正義会長は「ソフトバンクグループの次のフロンティアは『フィジカルAI』」と述べた。 | [2] |
本紙の見方
今回の買収は、ソフトバンクグループが掲げる「フィジカルAI」戦略の具体化として位置づけられる。SBGは2025年10月8日の発表で、AIチップ、AIロボット、AIデータセンター、電力の4分野をASI実現の柱と明示しており、ABBロボティクス買収はそのうちAIロボット分野の中核となる。買収金額53.75億米ドルは、SBGの2025年3月期の売上高(7兆2437億円)と比較しても約11%に相当する大型投資であり、ロボティクス事業を単なる投資対象ではなく、自社の事業基盤として取り込む姿勢が読み取れる。 本紙の過去報道との接続では、2026年8月10日の記事で「ABBはロボット事業を売却後、AI基盤企業として再定義」と報じたが、今回の買収はその売却先がSBGであることを確定させるものだ。また、2026年3月9日や2026年4月15日の記事で報じたABBとNVIDIAの提携は、買収後もSBGのAI基盤と組み合わさることで、シミュレーションと実機の乖離を縮小する取り組みが加速する可能性がある。一方、2026年7月20日の記事でABB Robotics中国社長が語った上海メガ工場での完全なバリューチェーン提供は、SBG傘下でも継続されるかが焦点となる。 業界構造への含意として、産業用ロボット市場では中国勢の台頭により外資のシェアが低下している(2026年8月10日記事で国産勢が55%超と報道)。SBGはABBのブランド力と販売網を活用しつつ、AI技術を組み合わせることで差別化を図る構えだ。また、SBGは2025年12月29日にDigitalBridgeを約40億ドルで買収する契約を発表しており、AIデータセンター基盤の強化も進めている。これにより、ロボットの「頭脳」となるAIモデルと「身体」となるロボット本体、そしてそれを支える計算基盤を垂直統合する動きが鮮明になっている。 未確定の論点としては、買収完了後のABBロボティクスの経営体制や、既存のロボティクス関連投資(Berkshire Grey、AutoStoreなど)との具体的な連携スキームが挙げられる。また、買収価格の調整や規制当局の承認条件次第で、完了時期が2026年後半からずれ込む可能性もある。さらに、ABBロボティクス事業の収益性(2024年12月期のEBITDAマージンは約13.7%)が、SBGの成長戦略にどのように寄与するかは、今後の業績開示を待つ必要がある。
なぜ重要か
ソフトバンクグループによるABBロボティクス事業の買収は、産業用ロボットの老舗企業がAI資本の傘下に入る歴史的な転換点であり、ロボット産業の競争構図を大きく変える可能性がある。SBGが掲げる「フィジカルAI」の実現に向けて、ロボット本体とAI・計算基盤を一体的に保有する動きは、今後のロボット産業の垂直統合のモデルケースとなる。
日本への影響
日本の産業用ロボット市場では、発那科や安川電機などが強みを持つが、SBGによるABB買収は、AI技術を活用したロボットの知能化競争を加速させる可能性がある。特に、SBGが持つAI・半導体技術(Armなど)とABBのロボット技術の組み合わせは、日本のロボットメーカーにとって新たな競争圧力となる。また、SBGの既存投資先であるソフトバンクロボティクスグループは、日本市場でのサービスロボット展開を強みとしており、ABBの産業用ロボット技術との連携により、日本国内でのロボット活用の幅が広がる可能性がある。