何が起きたか

NTTは2026年8月13日、AIと自動化技術を活用し、薄膜成長(成膜)を自律的に最適化するとともに、その過程で得られたデータを人が理解・転用できる成膜ルールに変換する「解釈可能な自律成膜」を実証したと発表した。本技術では、自動スパッタ成膜、自動光学評価、AI(ベイズ最適化)による次の成膜条件決定を連携させ、成膜から評価、次の成膜条件決定までを人による判断や解析を介さずに繰り返す自律成膜基盤を構築。従来の技術者・研究者による実験運用と比べて、成膜・評価サイクルを約3倍に高速化した。実証対象として次世代パワー半導体材料の一つであるβ-Ga₂O₃を選び、スパッタ法としては世界初の単結晶薄膜を実現した。

詳細

本技術では、スパッタ装置内で成膜に用いる基板(ウェハ)を自動搬送し、ベイズ最適化が提案した温度、スパッタ電力、Ar(アルゴン)流量、O₂(酸素)流量の4つの成膜パラメータからなる成膜条件で成膜を行う。成膜後の自動光学測定データから薄膜品質を自動解析・評価し、その結果をもとに予測モデルを更新することで、次の成膜条件が自動的に選択される。薄膜品質の指標として、膜中の欠陥や乱れの程度と相関するアーバックエネルギー(Eu)を用い、56回の自律探索により、サファイア製のウェハ上でスパッタ法により作製したβ-Ga₂O₃薄膜として、報告されている中で最小のEu=182meVを示す成膜条件を見いだした。さらに、この条件をβ-Ga₂O₃基板上の成膜に転用することで、高品質なβ-Ga₂O₃単結晶薄膜を実現した。また、ランダムフォレストを用いた解析により、薄膜品質の変化は温度、スパッタ電力、Ar流量、O₂流量それぞれの影響を足し合わせることで大部分を予測できる一方、温度とO₂流量の組み合わせだけは単純な足し合わせでは予測しきれず、重点的に調整すべき成膜パラメータの組み合わせであることを明らかにした。この知見から「各パラメータを順に調整し、最後に温度とO₂流量を重点的に調整する」という成膜ルールを抽出し、研究者が再最適化を行った結果、Euが163meVまでさらに低減した。なお、現行構成では、ウェハをロードロックへセットする作業および成膜後サンプルを光学測定部へ移送する作業の一部に人手を介している。

Key Facts

NTTは、AIとロボット技術を連携した自律成膜基盤により、成膜・評価サイクルを従来の約3倍に高速化し、β-Ga₂O₃の高品質な単結晶薄膜の作製に成功した。[1]
本技術では、自動スパッタ成膜、自動光学評価、AI(ベイズ最適化)による次の成膜条件決定を連携させ、成膜から評価、次の成膜条件決定までを人による判断や解析を介さずに繰り返す自律成膜基盤を構築した。[1]
56回の自律探索により、サファイア製のウェハ上でスパッタ法により作製したβ-Ga₂O₃薄膜として、報告されている中で最小のEu=182meVを示す成膜条件を見いだした。[1]
ランダムフォレストを用いた解析により、温度とO₂流量の組み合わせが重点的に調整すべき成膜パラメータであることを明らかにし、「各パラメータを順に調整し、最後に温度とO₂流量を重点的に調整する」という成膜ルールを抽出した。[1]
本研究成果は、2026年8月13日にNature Communicationsに掲載された。[1]

本紙の見方

今回の発表は、NTTが進める「AI for Science」の取り組みを、単なる条件探索から「科学知識の創出」へ拡張する点で画期的である。従来のAIによる条件探索は、最適条件を見つけられる反面、その過程がブラックボックス化しており、得られた知見を他の材料や装置に転用することが難しかった。NTTは、ランダムフォレストを用いて成膜パラメータの寄与と相互作用を分解し、人が理解・実行できる成膜ルールを抽出した。これにより、自律実験の結果を科学知識として蓄積・活用する道を開いた。 本紙の過去記事では、NTTが光電融合分野の特許出願で上位に入り、CPOの量産課題として光ファイバー接続の1μm未満の精度が挙げられている(2026年8月18日付)。今回の自律成膜技術は、半導体製造プロセスの自動化・知能化を進めるものであり、光電融合デバイスの製造効率化にも寄与する可能性がある。NTTは2025年5月2日にも「半導体薄膜の材料分析にAIを活用し、自動化に成功」と発表しており、今回の成果はその延長線上にあるとみられる。 業界構造への含意として、本技術は半導体材料開発の効率化に寄与する。特に、β-Ga₂O₃は次世代パワー半導体材料として注目されており、大面積化・低コスト化に有利なスパッタ法で単結晶薄膜を実現したことは、実用化への大きな一歩となる。また、成膜ルールの抽出は、材料開発のノウハウを形式知化することを可能にし、人材依存からの脱却につながる。 一方、未確定の論点として、本技術の適用範囲が挙げられる。現状では、ウェハのセットやサンプル移送の一部に人手を介しており、完全な自動化には至っていない。また、他の材料系や装置への転用可能性は示唆されているものの、実証はβ-Ga₂O₃に限られている。今後、複数の評価指標を扱う最適化や、材料物性・成膜プロセスの知識を取り入れたAIモデルの高度化が進められる予定だが、その具体的な成果はまだ明らかでない。

なぜ重要か

本技術は、AIによる材料開発を「ブラックボックス最適化」から「科学知識の創出」へと転換させるものであり、半導体材料開発の効率化とノウハウの形式知化を同時に実現する。これにより、次世代パワー半導体の実用化が加速し、省エネ社会の実現に貢献することが期待される。

日本への影響

本技術は、日本の半導体材料開発における競争力強化につながる。特に、β-Ga₂O₃は日本発の材料として注目されており、スパッタ法での単結晶薄膜実現は、国内のパワー半導体産業の基盤強化に寄与する可能性がある。また、成膜ルールの抽出は、日本の製造業が持つ暗黙知を形式知化する手法として、他の材料・プロセスにも応用が期待される。