何が起きたか

三菱ケミカルは2026年8月19日、最先端半導体の研磨工程に使用する超高純度コロイダルシリカの事業化を発表した。生産設備は同社の鹿島事業所(茨城県鹿嶋市)に新設し、2028年10月に営業運転を開始する予定。

本紙の見方

三菱ケミカルが最先端半導体向けの超高純度コロイダルシリカ事業に参入する。CMPスラリーは半導体の微細化・積層化に伴い、平坦性と欠陥低減の要求が年々厳しくなっており、材料の高純度化は競争力の要となる。同社は原料にテトラメトキシシランを用いることで不純物を抑えるとともに、粒子サイズや濃度のカスタマイズを売りにする。これは、半導体材料のサプライチェーンにおいて、化学メーカーがプロセス要件に応じて材料を最適化する「材料ソリューション」型のアプローチであり、単なる汎用品供給からの差別化を狙ったものとみられる。 本紙の過去報道(関連記事なし)との接続はできないが、三菱ケミカルは中期経営計画「KAITEKI Vision 35」で「データ社会と通信の高度化」を重点事業領域の1つに掲げており、今回の事業化はその一環と位置づけられる。同社はこれまで半導体材料でフォトレジストや高純度薬液などを手がけてきたが、CMPスラリーは新規分野となる。競合としては、Fujimi Incorporatedや昭和電工(現・レゾナック)などがCMPスラリー市場で実績を持つ。特にレゾナックは半導体材料の総合サプライヤーとして、スラリーだけでなく研磨パッドなども展開しており、三菱ケミカルがこの市場に後発参入する際の競争は激しいとみられる。 市場規模については、公開情報では正確な数値を確認できないが、半導体の微細化が進む中でCMP工程の回数は増加傾向にあり、スラリー需要は拡大するとみられる。特に最先端ロジック半導体では、EUV露光後のパターン形成や3D NANDの積層化に伴い、CMPの重要性が増している。三菱ケミカルがターゲットとする「最先端半導体」向けは、歩留まり向上に直結するため、高純度・高カスタマイズ性が評価されれば、プレミアム価格での採用も見込める。 一方で、課題もある。CMPスラリーは半導体メーカーとの共同開発が不可欠であり、採用までに長い評価期間が必要とされる。また、粒子サイズや濃度のカスタマイズは、量産時の品質安定性が問われる。さらに、原料のテトラメトキシシランはシリコンアルコキシドであり、加水分解によるゲル化を防ぐ製造管理が難しいとされる。これらの技術的ハードルを乗り越え、2028年10月の稼働までに顧客開拓を進められるかが焦点となる。 今後確認すべき点は、①具体的な生産能力(年間生産量)と投資額、②主要な供給先(半導体メーカーや装置メーカー)の動向、③競合他社の高純度スラリーとの性能差や価格競争力、である。これらの情報が明らかになれば、三菱ケミカルの同事業の位置づけがより明確になるだろう。

なぜ重要か

半導体の微細化が進む中で、CMPスラリーの高純度化は歩留まり向上に直結する重要課題だ。三菱ケミカルの参入は、材料サプライチェーンにおける競争を激化させるとともに、日本発の高純度材料技術が最先端半導体の製造を支える一例となる。今後の生産能力や顧客獲得の動向が、同社の半導体材料戦略を占う試金石になる。

日本への影響

日本は半導体材料分野で高い競争力を持つが、CMPスラリー市場では海外勢も存在感を強めている。三菱ケミカルのような化学大手が高純度材料で参入することで、日本の材料サプライチェーンの厚みが増す可能性がある。特に、テトラメトキシシランなどの高純度シリコン化合物の製造技術は、日本の化学メーカーが強みを持つ分野であり、国内での生産体制強化につながる。