何が起きたか

MERICSとRhodium Groupは2023年5月9日、中国の対欧州直接投資に関する報告書を発表した。2022年の中国のEU・英国向け投資総額は79億ユーロで前年比22%減、2013年以来の低水準となった。一方、グリーンフィールド投資は45億ユーロで全体の57%を占め、M&Aの34億ユーロを上回り、2008年以来初めて逆転した。投資の88%はドイツ、ハンガリー、英国、フランスの4カ国に集中している。

詳細

グリーンフィールド投資の増加は、自動車セクターにほぼ集中した少数の大規模プロジェクトによるもので、CATL、Envision AESC、SVOLTなどの中国電池大手がドイツ、ハンガリー、英国、フランスに工場を建設している。M&Aは34億ユーロで2011年以来の低水準。消費者製品と自動車が上位2セクターで、中国の対欧州投資全体の4分の3を占めた。報告書は、進行中および新規のグリーンフィールド投資が投資総額の下支えになるとしつつも、中国の対欧州投資全体の長期的な回復には不十分と分析している。

Key Facts

2022年の中国のEU・英国向け投資総額は79億ユーロで、前年比22%減、2013年以来の低水準。[1]
グリーンフィールド投資は45億ユーロで中国の対欧州投資全体の57%を占め、M&Aの34億ユーロを上回り2008年以来初めて逆転。[1]
投資の88%はドイツ、ハンガリー、英国、フランスの4カ国に集中。[1]
CATL、Envision AESC、SVOLTなどの中国電池大手がドイツ、ハンガリー、英国、フランスに工場を建設。[1]
消費者製品と自動車が上位2セクターで、中国の対欧州投資全体の4分の3を占めた。[1]

本紙の見方

今回の報告書は、中国の対欧州投資が「買収」から「新規建設」へと軸足を移したことを明確に示している。2022年のグリーンフィールド投資45億ユーロは全体の57%を占め、M&Aの34億ユーロを上回った。これは2008年以来初めての逆転で、中国企業の欧州戦略が既存企業の買収ではなく、現地での工場新設を中心とする段階に入ったことを意味する。 本紙が既報の通り、中国のロボット産業は半年で935億元超の資金調達を実現し、身体性AI産業が転換点を迎えている。今回の電池投資の動きは、ロボット産業とは異なるセクターだが、中国企業が欧州で「モノを作る」ための直接投資を拡大している点で共通する。特に、EV電池はロボットやAIと並ぶ中国の戦略産業であり、欧州での生産拠点確保は、現地市場への浸透とサプライチェーンの掌握を狙ったものとみられる。 業界構造への含意として、まず、中国の電池大手が欧州に工場を建設することで、欧州のEVサプライチェーンにおける中国の存在感が一層高まる。CATL、Envision AESC、SVOLTの3社がドイツ、ハンガリー、英国、フランスに投資しており、これらの国々が中国の対欧州投資の88%を占める。これは、欧州の自動車産業が中国の電池技術に依存する構図を強める可能性がある。 次に、グリーンフィールド投資がM&Aを上回ったことは、欧州側の規制環境を反映している。MERICSのMax J. Zenglein氏は、グリーンフィールド投資は重要インフラやテック分野の買収よりも規制審査を受けにくいと指摘する。つまり、中国企業は欧州での存在感を高める手段として、買収ではなく新規建設を選んでいる。 未確定の論点としては、今回の報告書は2022年のデータに基づくものであり、2023年以降の動向は不明である。また、報告書は「進行中および新規のグリーンフィールド投資が投資総額の下支えになる」としながらも、現在の少数のプロジェクトが完了すれば投資が減少するリスクを指摘している。今後の中国の対欧州投資が持続するかは、新たなプロジェクトの発表次第となる。

なぜ重要か

中国の対欧州投資が買収から新規建設へとシフトしたことは、欧州のEV産業における中国の影響力が「資本参加」から「生産拠点の掌握」へと深化したことを示す。これは、欧州の自動車メーカーや政策立案者にとって、サプライチェーンの依存関係を再考する材料となる。

日本への影響

中国の電池大手が欧州に工場を建設する動きは、日本の電池・自動車産業にとっても競争環境の変化を意味する。欧州市場での中国製電池のプレゼンスが高まれば、日本企業の欧州戦略にも影響を与える可能性がある。ただし、今回の報告書は日本への直接的な言及はなく、具体的な影響は今後の動向を注視する必要がある。